「ノーサイドの精神」についての一考察

○西村克美(嵯峨野高校)、星野繁一(龍谷大学)、髙木應光(神戸居留地研究会)

【目的】
我われの愛するラグビーは、他のスポーツとの差別化・ブランド化を図ることが可能な要素~歴史・伝統・精神~を数多く持っている。その一つが「ノーサイドの精神」である。試合後にアフターマッチ・ファンクション(以下,ファンクション)と呼ばれる交歓会を行い、レフリーともども互いの健闘を称え合い、後日の再開を約束する。言い換えれば、「ノーサイドの精神」を最も顕著に表すものがファンクションである。
 現在、日本ラグビーフットボール協会(以下,日本協会)は、「ノーサイドの精神」を日本へ、世界へ という標語を掲げている。また我われも、「ノーサイドの精神」=ファンクションと理解している。しかしながら、意外にもファンクションが、ごく一部でしか実施されていないようである。一方、標語を示しているにも拘らず、日本協会がその普及・具体化させる方策を全く講じていない実情もある。
本稿では、ファンクションの実態を把握する。加えて、より多くの部・クラブがそれを実施するための基礎資料を提供したいと考えている。

【調査方法】
調査表(別紙:発表時配布)を作成・配布し、スクール指導者14名、高校生24名、高校指導者65名、大学指導者41名、クラブ指導者11名、レフリー94名、計249名から回答を得た。

【結果】
(集計結果は別紙:発表時配布)
「1.ファンクションを実施・参加していますか」という問いには、全体の48.6%が「A.実施している」と答えている。カテゴリー別では、指導者等が41.2%、レフリーが66.0%である。「①どのような試合の後に実施しているか」の問いには、「A.親善試合・定期戦」での実施が、全てのカテゴリーで多い。「B.練習試合」での実施は、スクール、大学で行われている。高校、クラブでの実施は、今回の調査では確認できなかった。「C.公式戦」での実施数は、大学やクラブで多く、秋以降の公式戦での実施がうかがえる。また、レフリーのファンクションへの参加数は多く、様々なレベルの試合に参加していることがうかがえる。
「2.ファンクションは必要という意見について」は、全体で84.3%が「①その通り、必要である」との回答があり、ラグビー関係者がファンクションの必要性を十分認識していることが把握できた。中でも指導者等で集計したところ89.3%、ラグビー経験の少ない高校生でも87.5%が「①必要」と回答している。

【考察】
「1.ファンクションの実施・参加」については、「A.実施・参加」が、半数に満たない結果となった。この結果は、憂慮すべき状況である。即ち「ラグビーらしさ」の一大特徴であるファンクションの実施・参加が半数に満たない。これは「ラグビーのブランド力」低下が進んでいることを表す数字と言えるだろう。実施されているのは、「A.親善試合・定期戦」が多く、特に大学、レフリーで高い数字を得た。また、高校生においても定期戦、ワールドユースなど海外チームとの試合後にファンクションを経験していることが分かった。「B.練習試合」での実施は、一部のスクールや大学に止まった。少数ではあるが、これは大変うれしいことである。「C.公式戦」での実施は、大学、クラブに多い。一方、高校公式戦で実施されていないのは寂しい限りである。
おわりに:ファンクションの意義や重要性は高く認識されている。だが、少数ながら「必要ない」という回答もある。ラグビー関係者ならファンクションの重要性をよく理解して欲しいものである。そのためには、各カテゴリーで「ノーサイドの精神」にちなんだ取り組みを工夫し、実施すべきであると考える。なお、来年度の学会で、今回寄せられた数多くの意見を集約し「ノーサイドの精神」をより具体化する方法について、発表・提言したいと考えている。

大学体育におけるラグビーの効果的な授業展開に関する一考察

―コンタクトプレー及び男女学生共習における指導方法に着目して―

○早坂一成(名古屋学院大学) 岡本昌也(愛知工業大学)
寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)

キーワード:大学体育教育 指導方法 コンタクトプレー 男女共習

【はじめに】
これまで大学の体育・スポーツ系学部のラグビーの授業を担当してきたが、その多くの大学において男女共習の形態がとられている。カリキュラム編成上、やむを得ないのが現状であるのでタグ、タッチラグビーといった球技的な要素を中心としたシラバスを元に授業を展開してきた。しかし、受講学生からコンタクトプレーへの興味、関心を感じ、加えて昨年のW杯での日本の躍進からラグビーの本質的な特徴であるコンクタクトプレーの授業への実践が必要と感じた。そこで本研究では、男女共習の授業におけるより実践的、効果的な授業の展開例を示し、今後の大学体育教育への一助とした実践研究を行った。

【方法】
A大学のスポーツ系学部における授業(学科基礎科目、男女共習、受講生18名の内経験者1名、2015年度、後期、15コマ)の展開のなかで第8回目以降に(図.1簡易ブレイクダウンルール、図.2エアータッチルール)を取り入れてゲーム形式でのケーススタディーとインタビュー調査を行った。さらに女子ラグビー選手に同様のゲームを行わせ、ビデオ撮影してボールの継続と争奪に着目してゲームパフォーマンス分析を行った。

図.1 簡易ブレイクダウンルール
図.1 簡易ブレイクダウンルール

図.2 エアータッチルール
図.2 エアータッチルール

【結果及び考察】
ケーススタディー、インタビュー調査の結果からラグビーらしい動作やゲームの進行を得ることができた。「簡易ブレイクダウンルール」においてはタッチ直後に1対1のブレイクダウンを行うことによって、ボールの継続に必要なスキルやラックでのボールの争奪のラグビーの目的を体現することができた。今後は複数プレーヤーでのブレイクダウン攻防やタックルシチュエーションの導入を検討したい。また「エアータッチルール」は男女共習における体力差を補うことができ、独走や一方的なゲーム展開を減らし、よりエキサイティングなラグビーの魅力を伝えることができた。体格の差からエアータッチをためらうプレーヤーに対しては「自己の感情」ではなく「チームのために貢献する」という競技規則の原則を初心者多い受講生に理解させることができ、競技力普及とグラスルーツ的活動の一助として効果的な指導方法の実践研究となった。

日本ラグビー学会第9回大会のご案内

日本ラグビー学会第9回大会を下記のとおり開催いたします。

謹啓
会員の皆様には、益々ご健勝のこととお喜びいたします。
さて、日本ラグビー学会第9回大会の案内をご連絡いたします。
本学会の特徴を生かした、幅広い視野からのアプローチによる有意義な大会にしたいと考えておりますので、多数の方々のご参加を頂きますようお願い致します。
謹白

■期日:平成28年3月26日(土)11:00~16:30

■会場:関西大学 千里山キャンパス 第2学舎 1号館
〒564-8680
大阪府吹田市山手町3-3-35
阪急千里線「関大前」駅下車 徒歩7分

■大会概要
受付:第2学舎1号館5階 10:30 ~ 13:30
参加費:会員 1,000円  一般・学生 無料

■講演1:「子どもや高齢者の発汗能力と熱中症予防策」
講 師:井上 芳光 氏 (大阪国際大学人間科学部教授)

■講演2:「ラグビー外傷について」
講 師:外山 幸正 氏 (関西ラグビーフットボール協会医務委員長)

○定期総会

○懇親会:新関西大学会館〈4階〉レストラン「チルコロ」17:00 ~

【お問合わせ】
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愛知県ラグビーフットボール協会における女子ラグビー強化の取り組み

―国民体育大会での正式競技としての導入に向けて―

寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部) 岡本昌也(愛知工業大学)
高田正義(愛知学院大学)廣瀬かほる(防衛医科大学校) 
寺田恭子(名古屋短期大学)

キーワード:女子ラグビー、オリンピック、国民体育大会、強化対策

【はじめに】
2016年リオデジャネイロ五輪から男女の7人制ラグビーがオリンピック種目として採用決定して以降、日本ラグビー協会では女子ラグビーの普及・強化を急ピッチで進めている。しかし本研究者らが昨年の本学会第7回大会において発表したように日本における女子ラグビーの歴史は浅く、競技人口、競技環境など課題はまだまだ多いのが現状である。
そのような中、(公財)日本ラグビーフットボール協会は平成26年5月15日付で「国民体育大会 女子ラグビーの正式競技について」という通達を出した。内容は2020年東京オリンピックに向けた対応として現在、国民体育大会(以下、国体と表記)において未実施となっているオリンピック競技(女子ラグビー)を国体に導入するための実行計画の通知と各都道府県協会で国体に向けて代表チームをつくることを要請するものである。

【日本協会の方策】
実行計画では、平成26(2014)年度から平成34(2022)年度までの9年間について、平成26(2014)年度から平成28(2016)年度までの3年間を導入期間として、ステップ1~3に分け、その後平成34(2022)年度までを実行段階としている。(下記参照)
*ステップ1(2014年 長崎県):既にイベント事業(エキシビジョン含む)として実施している競技種目から導入。
*ステップ2(2015年 和歌山県):調整が整った競技種目からイベント事業(エキシビジョン含む)として導入。
*ステップ3(2016年 岩手県):条件を満たしたオリンピック競技種目全てをイベント事業(エキシビジョン含む)、正式競技として導入。
*継続期間(2017年 愛媛県、2018年 福井県):オリンピック競技種目全てをイベント事業(エキシビジョン含む)、正式競技として実施。
*継続期間(2019年 茨城県、2020年 鹿児島県、2021年 三重県、2022年 栃木県):オリンピック競技種目全てをイベント事業(エキシビジョン含む)、正式競技として実施。

【愛知県協会の取り組み】
愛知県には日本における女子ラグビー創世記から存続する「名古屋レディース」という全国的にも強豪といえるチームが存在する。そのため女子ラグビー選手が活動する機会は保障されているものの、その競技環境等はとても十分とは言えないのが実情である。一方、スクールの女児や女子中・高校生のオリンピックを目指してラグビーをしたいというニーズは年々高まってきている。愛知県ラグビーフットボール協会女子委員会では日本協会の通達を受けて、県内女子ラグビー選手の育成・発展・強化を図るための方策を鋭意検討中であり、学会発表にてその内容を今後の課題と合わせて説明する。

「ラグビーの精神・歴史・伝統への理解」についての一考察

西村克美(嵯峨野高校) 星野繁一(龍谷大学) 髙木應光(神戸居留地研究会)

キーワード:ラグビーの精神・歴史・伝統、プライド

1.目的
自らがプレーするラグビーの精神・歴史・伝統を理解し、ラグビーが他種目に比べ明らかにブランドスポーツであることを認識する。その一助とするために調査を行った。

2.調査方法
クイズ形式の調査票(別紙:発表時配布)を作成・配布し、小学校5・6年生69名、中学76名、高校100名、大学生973名、指導者126名から回答を得た(2014・7~11)。調査票の回収後に正解及び解説をプリント・配布し、ラグビーの精神・伝統・歴史についての理解を求めた。

3.結果と考察
(集計結果は別紙:発表時配布)
1「ラグビー」の語源: 語源についてはラグビー校からの由来がよく知られるが、町名・地名に思いが至らなかったようである。正解②「町の名前」と答えた割合は、年齢と共に高い数値を示した。中でも50歳以上の指導者の8割近い数字が目立った。残念なのは大学生で、「分からない・知らない」が最多の24.5%で、しかも正解者の少なさ55.3%も気にかかる。
2「クラブ・部活」のルーツ国:小学生以外では正解②英国、と予測が可能なようで高い正解率(中学71.1~指導者90.5%)を示した。19C前半ラグビー校でアーノルド校長以降、生徒たちが放課後、自主的にフットボール(サッカーではなくラグビーの意)を実施するようになった。これが今日のクラブ・部活のルーツと考えられ、ラグビーがブランドスポーツと言える歴史・伝統である。
3「ラグビーはサッカーから生れた」との間違った言説は、日本協会の失態やマスコミによって今や常識レベルとなっている。①とした不正解者が多く、小・中・高で6~7割、大学生で8割に近い。一方、高校の正解者では府県によって大きな差も見られた(H44.1%⇔K3.1%)。また、髙木・星野による同様の調査(1995年)と比較すると、今回よりも過去の方が、正解者の多い大学もあった(W大) 。この言説は、我われラグビーのいわば出生に関わるものだけに「ラグビーはサッカーから生れた」との誤解は是非とも解きたい。
4「クーベルタンが古代五輪を復活させた動機」:正解③「学園・青春ドラマ」を読んだから。クーベルタンが12歳の時『トム・ブラウンの学校生活』(ラグビー校OB著)を読み感動。やがてフランスの教育制度を英国型に、さらには世界の青少年に五輪を、と壮大な事業へとつながって行ったのだった。だが、④「知らない・分からない」が、いずれでも最多。ほとんど知られていない事実なので、機会あるごとにPRしラグビーのブランド力を示したい。
5「幻のトライ」:②聞いたことがないが7~8割と多数を占める。一方、指導者では5割、中でも50歳以上では逆に7割近くが①聞いたことがあると回答している。ラグビー最大の美談として語り継ぐことが大いに必要であろう。チームの強弱に関わらずフェアープレー、ジェントルマンリーに徹すること。そして、レフリーの判定に敬意を払い素直に従うことが、青少年の人格を成長させる。と同時にラグビーのブランド力アップに必ずや貢献すると考える。

おわりに
多くの大学(全国のトップレベル校)に協力を頂いたお陰で973人もの調査票を回収できた。だが、残念ながらラグビーの精神・歴史・伝統への理解度は低かった。スキルやフィットネス等にのみ時間が割かれているのだろう。これでは他種目と何ら変わるところがなく、自らにプライドを持ったラガーマンは育たない。他種目も認めるラグビーのブランド力(精神・歴史・伝統)をどの様に継承するか。我われ指導者の課題は大きい。

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