女子ラグビーの軌跡と今後の展望

寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)、岡本昌也(愛知工業大学)、
高田正義(愛知学院大学)、廣瀬かほる(防衛医科大学校)

キーワード:女子ラグビー、競技人口、種目転向

【はじめに】
近年、W杯やオリンピックでの女性アスリートの活躍はめざましいものがある。なでしこジャパンは言うまでもないが、今回の2014ソチ冬季五輪においても、アイスホッケーのスマイルジャパン、女子カーリングチーム、スキージャンプの高梨沙羅選手など、メディア露出度は明らかに男性アスリートよりも多い。そのような状況において、ラグビーというと男子でさえも3Kスポーツとして敬遠されがちで、昨今競技人口減少の一途をたどっているのだが、2016年リオデジャネイロ五輪で男女7人制ラグビーが正式種目となったことで、女子ラグビーの競技人口は年々増加している。
本稿では、日本における女子ラグビーの軌跡を振り返るとともに、今後さらなる競技人口の増加に向けての方策と競技力向上のための課題を明らかにしつつ、女子ラグビーの将来について考えてみる。

【女子ラグビーの歴史】
日本ラグビーフットボール協会HPによると、日本における女子ラグビーの始まりは1980年代前半にさかのぼる。それ以前にも大阪や東北でラグビースクールに子どもを通わせているお母さんたちが一緒にプレーをしていたことは伝えられているが、女性が本格的にラグビーを競技として始めたのは1983年で、東京、名古屋、松阪でほぼ同時にチームが誕生したとされている。東京では、世田谷区が主催した「ラグビー初心者講習会」の募集要項に「男女不問」とあったために、女性7名が応募されたことから始まり、それがラグビー誌やTVに取り上げられ、またたく間に人数が増えてチームとしての形を成すことになったようである。初めて女性同士の試合が行われたのは、翌年(1984年)のことで、世田谷レディースが遠征をし、ブラザー工業レディース(のちの名古屋レディース)と松阪レディースと対戦した。その後この3チームが行き来をして交流が生まれるようになっていった。それから4年後の1988年4月に「日本女子ラグビーフットボール連盟」が設立された。当時の加盟チームは15チームで、同年11月には、東京・駒沢陸上競技場補助グランドで第1回女子ラグビー交流大会が開催された。以降、この交流大会は毎年11月23日に定着して行われ、昨年(2013年)で第26回を数えている。同連盟は2002年4月に日本ラグビーフットボール協会に正式に加入し、クラブ委員会所属の団体として活動を続けていたが、男女7人制ラグビーが2016年夏季五輪から正式種目に採用されたことを受け、2010年には女子ラグビーの競技力向上と更なる普及拡大を目的として、女子連盟を発展解消する形で日本協会内の一委員会として女子委員会が発足した。

【代表チームの軌跡】
 W杯における戦績では、1991年の第1回ウエールズ大会、1994年の第2回スコットランド大会に招待されて出場し、第2回大会ではスウェーデンから初勝利をあげた。しかし1998年の第3回オランダ大会にはテストマッチの実績が乏しいことを理由に招待されなかった。第4回大会からは、日本・香港・サモアの3か国でアジア・太平洋予選を行うことが決められ、無事予選を突破した2002年のバルセロナ大会では、オランダを破り、男子より先にW杯2勝目をあげた。ところが、その後の第5回大会からW杯の出場枠が16から12に減らされ、日本はアジアで実績最上位のカザフスタンに第5回、第6回と2大会連続で敗れ、本大会に出場できていない。
 女子ラグビーにおいても、15人制では男子と同様、競技人口の確保が大きな課題となっている。特に女子の場合は、スクール出身の中学生以上の受け入れ先が少ないという問題を抱えている。ラグビー熱が高いと言われる近畿地区でも高校の女子ラグビー部は数校にしかない。

【7人制ラグビーの可能性】
 一方では7人制ラグビーが五輪正式種目になり、しかも2020年東京開催が決定したことで、ラグビーに種目を転向する選手も出てきている。現在の女子日本代表メンバー(サクラセブンズ)にも他競技から転向した選手も数名いる。女子サッカー人口が約3万人であるのに対して、2012年度の女子ラグビー選手の登録数は約2800人となっている。単純計算でいえば、「なでしこジャパン」よりも「サクラセブンズ」を目指す方が競争率は低いということである。また日本協会は2013年度より、女子7人制ラグビーにおいて、身体能力などに秀でたアスリートを他競技から発掘し、ラグビー選手として育成・強化する「メダルポテンシャルアスリートプログラム」を実施している。今後、女子ラグビー競技人口を増やすには、代表チームの国際大会での戦績にかかっているといっても過言ではない。
 学会大会では、女子ラグビー選手を対象としたアンケート結果を参考に論じる予定である。

ルールに対する倫理観 ~ 反則についてサッカー選手との比較から ~

星野繁一(龍谷大学) 西村克美(嵯峨野高校) 髙木應光(神戸居留地研究会

キーワード:ルール違反、ジェントルマンシップ、ラグビー精神、危機的状況、指導者責任

【目的】
2012年3月に発表した「ルールに対する倫理観」を再度活用し、サッカー選手との比較を通して、ラグビー選手のルールに対する倫理観、その特性について考察してみた。

【調査方法】
先行研究は前回と同様、木幡日出男(現成徳大学教授)「ファウルについての考え方~中学生サッカー選手の調査から」(1989年サッカー医・科学研究会)を基にアンケート票を作成。前回のラグビー関西学生リーグの6大学生319名、今回サッカー関西学生リーグの6大学生285名からアンケートを回収し集計結果を得た。

【結果と考察】
アンケート結果を5つの分野に分け、サッカー及びラグビー選手のルールに対する意見を比較させながら分析・考察を試みた。
(*①~⑲は質問番号、質問票は別紙)

1)プレーヤーとレフリー:④「注意、警告、退場」を受けた選手数に大きな差があった。即ちサッカーが78.2%に対してラグビーは41.7%で半数程度でしかない。それは、両者のルール構造の差によるものではないか。

2)遵法精神:⑥「反則も戦術」⑦「場合によって反則も可」⑱「どんな場合でも反則は不可」等の項目では、サッカーとラグビーとで有意差(χ²-検定0.01~0.05)があり、ラグビーの方がやや遵法精神に富んでいると言える。⑬「退場・イエローカードにならなければ反則も可」では両者に大きな差があり、これに反意を持つラグビー選手63.9%(サッカー42.3%)に安堵する。しかし⑪「反則はレフリーに見つからないように」への賛意は、サッカーとラグビーとで差はない。かつてスポーツマンに求められた理想像からは、ほど遠い。サッカーと比べ密集など反則が見え難いラグビーだからこそ「こそドロ」的な精神は非難されなければならない。

3)スポーツマンシップ:⑩「敗戦時、相手を誉めるべき」には両者とも4割強しか賛成しない。“ノーサイド精神”を強調するラグビーが。これでは看板を降ろさざるをえない。⑭「スポーツマンシップを心がけて試合する」には両者とも8割近くが賛意を示しているが、⑮「スポーツマンなら反則しないのは当然」には両者とも35%程度しか賛意を示さない。筆者らは「スポーツマンシップ」をスポーツの場におけるジェントルマンシップと解するが、このような指導が必要であろう。

4)反則と勝敗:⑨「勝つためには反則も必要」への賛意はサッカー46.7%、ラグビー37.6%とラグビーの方がやや抑制的である(χ²-検定0.05)。だが、これへの反意は25%位でしかない。しかも⑲「反則してでも勝ちたい」ではサッカーと差はなく35%もが賛意を示している。大いに問題であろう。大学ラグビー界にサッカーと変わらない勝利至上主義が蔓延していると言えるだろう。“Good looser”は死語なのか。

5)サッカー/ラグビーの目的:⑰「一番大切なことは勝利ではない」に賛意を示すのは両者とも15%程度でしかなく、これに反意を示す数字が実に50%強にも達している。大学生といえども教育の範疇でのスポーツ活動である。にも関わらず最終目的を勝利に置くようでは、大学ラグビーの将来は暗いと言わざるを得ない。

【おわりに】
 サッカー関係者の多くが「ラグビーをリスペクトしている」と話しているが、大学生ラガーマンの現状は情けない状況にある。我われラグビー指導者に託された課題は、技術や戦術面ではなく健全なラグビー精神の継承ではなかろうか。

京都産業大学ラグビー部員の身体能力 -4年目の検証-

淡路靖弘(京都産業大学ラグビー部) 大西健(京都産業大学)溝畑 潤(関西学院大学)

キーワード:筋力、心肺持久能力、身体組成

【目的】
近代のラグビーにおいて身体能力の優劣はチームの戦術上大きな要素となる。身体能力が優れていればより高度の戦術を完遂することも可能になり大きくチームの勝利に寄与することとなる。ラグビーに必要とされる身体能力とは筋力、心肺持久能力、身体組成である。ラグビーの競技特性としてコンタクト時におけるブレイクダウンの強さ、80分間にわたりフィールドを駆け回る豊富な運動量、各ポジションにおける適した身体組成、この3つが三位一体となってはじめて優れた身体能力が確立されたと言える。本研究は京都産業大学ラグビー部において昨年度全国大学選手権グループリーグ2位に進出したレギュラーメンバーの身体能力(筋力、心肺持久能力、身体組成)と一昨年の関西大学ラグビーリーグ戦において7位となり2部リーグとの入替戦に回ったレギュラーメンバーの身体能力を比較し差異を検証することとする。

【調査方法】
京都産業大学ラグビー部における全国大学選手権グループリーグ2位のレギュラーメンバー15名と一昨年のレギュラーメンバー15名を対象にし以下の項目を比較検証した。
1) 筋力
一か月に一度ベンチプレス、スクワットの1RM及び懸垂の最大反復回数を測定した。
2)心肺持久能力の差異の検証には3,000m走のタイムを測定した。
3) 身体組成(体重、周囲径、体脂肪率)
体格の検証として身体組成の計測を行った。周囲径は首周り、胸部、上腕部、腹部、大腿部、下腿部の計6か所又体脂肪率はキャリパーによる2点法を実施した。

【結果と考察】
1) 筋力においては昨年度のメンバーFW/BKともに一昨年のメンバーより優位を示した。特にスクワットにおける下肢筋のパワーが一昨年メンバーより顕著に有意差を示した。ベンチプレス、懸垂による上肢筋の筋力においては有意差が認められなかった。
2) 心肺持久能力の比較においてポジション別ではFW陣ではPR,HO、LOの前列5人は一昨年のメンバーが有意差を示し、FL,NO.8では昨年度のメンバーが有意差を示した。またBKにおいては各ポジションにおいて昨年度のメンバーが有意差を示した。
3) 身体組成の比較では体重、周囲径においてはFWの平均体重では昨年のメンバーが有意差を示している。ポジション別ではフロントローの平均体重、周囲径ともに一昨年のメンバーよりも上回っている半面、体脂肪率は
一昨年のメンバーが有意差を示している。LO,FL,NO8、BK陣においては有意差は認められなかった。

【まとめ】
筋力においては上肢筋の筋力は一昨年のメンバーとの比較においても向上は認められなかった為、更なる上肢筋の筋力向上が必要である。又心肺持久能力、身体組成では昨年度のメンバーは大型化したといえるが体脂肪率が増え心肺持久能力の低下を招いた。今後の課題として体脂肪率の軽減も必要である。

7人制ラグビーのゲーム分析 ―守備の成功と失敗のプレー時間に着目して―

岡西 康法(大阪体育大学大学院) 梅林 薫(大阪体育大学) 石川 昌紀(大阪体育大学)

キーワード:ラグビー,セブンズ,ゲーム分析

【はじめに】
2016年のリオデジャネイロオリンピックにおいて7人制ラグビー(以下 セブンズ)が、男女ともに正式競技として採用され、2020年の東京オリンピック開催も決定し、メダル獲得に向けた強化が急がれる。本研究は、セブンズ男子エリートチームの試合を対象に、ゲーム分析を行い、強豪チームの攻撃と守備の戦術の特徴を明らかにすることを目的とした。

【方法】
IRBワールドセブンズシリーズの2012年ニュージーランドで行われた14試合を対象とし、録画された映像を用いて分析を行った。分析は試合の時間データを、Windows Media Playerのタイムカウンターで計測した。
分析項目は、試合のプレーとプレー以外の時間とプレー時間内の守備時間を計測した。
<試合のプレー時間の分析>
試合のプレー時間は、コンバージョンキックを蹴る時間やペナルティーゴールを狙って成功したときの時間、ボールがグラウンドの外に出てプレーできない時間以外の時間とした。
<守備時間の分析>
 守備時間は、守備の成功時と失敗時、相手チームのミス時の3種類に分類した。守備の成功は、プレーが途切れたときやプレー中に攻撃側のチームから守備側のチームが攻撃権を獲得した場合とし、守備の失敗は、プレーが途切れたときやトライを奪われた場合とした。相手チームのミスは、セットプレーや密集などで守備の影響がない状況において、ノックオンが発生した場合とラインアウトにおいてノットストレートが発生した場合とし、それぞれの守備時間を計測した。
 測定項目は、勝利チームと敗戦チームに分け、平均化し、対応のないt検定を用いて有意差検定を行った。

【結果と考察】
<試合のプレー時間の分析>
 14分間で行われる試合の実際のプレー時間の全平均は、6.4±0.7分であった。
<勝敗別の守備時間の分析>
 守備の成功時間は、17.0±13.0秒であり、勝利チームと敗戦チームの守備時間に有意な差は見られなかった。
守備の失敗時間は、敗戦チームで19.4±14.3秒、勝利チームで16.9±13.4秒となり、勝利チームよりも敗戦チームの守備時間が有意に長い結果となった。

【総括】
本シリーズでは敗戦チームの守備時間が長くなり、自陣に攻め込まれる可能性が高く、失点につながったと考える。守備の回数を減らし、守備の失敗時間を減らす取り組みが、勝利の要因となる可能性がある。

【参考文献】
日比野弘・松元秀雄・山本巧(1998) ラグビーの作戦と戦術 早稲田大学出版部 11-28,83-94.
RUGBY WORLD CUP SEVENS 2009 STATICAL REVIEW MATCH SUMARY

「ラグビークラブにおける運営考察」―大阪のクラブチーム事情を参考事例として―

鈴木道男 (どんぐりラグビークラブ) 

キーワード : クラブチーム、マネジメント、企画

【目的】
1992年日本ラグビー協会登録数がピークを迎え、その後大幅な減少が続いている。  

関西ラグビー協会登録数においても1995年登録数1987チームから2012年は1285チームに減少、702チームが消えており特にスクールや学校クラブ数の変化と比べて、社会人・クラブチーム数減少に歯止めがかからない状況である。(選手数/1チーム約32人前後) ラグビーへの関心を高め、普及、競技人口を増加させ発展させるための組織として、クラブチームの運営は、幅広い年齢層の参加機会提供などたいへん有効な手段である。その実情と経過を把握して、将来の運営について考察する。

【方法】
ラグビー協会の協力を得て、最盛期から現在までの推移を把握、特に減少率が大きいクラブチームの活動低迷と衰退原因、その対策について考える。

【結果・考察】
主にクラブチームの会員構成は、特定の出身関係者のクローズクラブ、いろいろな出身会員で構成するオープンクラブがある。減少の原因としては、①試合グランド数の激減、 1995年に大阪城ラグビー場2面の閉鎖で、年間480試合分のグランドが消滅、代替グランドの確保も十分でなかった。対策⇒自主的なグランド紹介システム「グランド協議会」活動、    ②参加機会の減少 協会主催の大会も厳正な運用になりチーム参加登録のハードルが高くなった。対策⇒自主大会の開催「東大阪トライリーグ」「関西シニアラグビーフェスティバル」、遠征、 ③有能な管理者の減少 経験豊富で熱意あるマネージャー不足、会員募集の行き詰まり、試合アレンジ、ゲーム企画の不備 対策例⇒インターネット環境を利用した情報開示、利用拡大など、④運営会計 資金不足による活動制限を避ける。⇒年会費制(クローズクラブ)、参加費制(オープンクラブ)、効率的な運用で活動費を確保する。⑤協会主導などで、総合的なサポートを行い、合理的なマネジメント運営を浸透させ実施する。

【まとめ】
ラグビークラブ数が減少一途になっており、現状では社会人以降の競技者の参加機会確保が難しい状況である。このまま自律的にクラブ数、競技人口が回復増加することは難しい。 社会人・クラブラグビーが絶滅危惧種に指定される前に、人工的に孵化増殖を促す施策が必要である。日本協会、地域協会レベルで、有効なマーケティングを行い、データを蓄積し、スポーツマネジメントを取り入れた合理的運営、組織的な啓蒙、振興活動が不可欠である。運営の成功モデル例の情報を公開して、それぞれのクラブ運営の企画に生かしていくシステムを構築しなければならない。すでにオリンピック種目となり、2019年ラグビーワールドカップ日本開催に向けて日本国民の注目が集まる機会を、日本ラグビー普及発展の最大のチャンスとしてますますの普及発展、ファン拡大に生かしたい。 

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