7人制ラグビーのゲーム分析 ―ディフェンスに着目して―

岡西 康法(大阪体育大学大学院) 梅林 薫(大阪体育大学) 石川 昌紀(大阪体育大学)

キーワード:ラグビー,セブンス,ゲーム分析

【はじめに】
2016年のリオデジャネイロオリンピックにおいて7人制ラグビー(以下 セブンス)が、男女ともに正式競技として採用されることが決まり、近年セブンスは日本国内で注目されつつある。それに伴い、東京ラウンドが2012年の3月から国際大会に再び組み込まれた。本研究は、男子におけるエリートチームのセブンスの試合を対象とし、ゲーム分析を行い、セブンスの特徴を明らかにし、攻撃と守備の戦術を検討することを目的とした。

【方法】
IRBワールドセブンスシリーズの2012年ニュージーランドで行われた8試合を対象とし、録画された映像を用いて分析を行った。分析した項目は、試合のプレー時間、得点エリア、攻撃パターン、守備パターンである。

<試合のプレー時間の分析>
試合時間は、Windows Media Playerのタイムカウンターを利用し、実際のプレー時間を計測した。また、勝敗ごとに攻撃に費やした時間を計測することとした。
<得点エリアの分析>
得点のエリア分析は、トライが発生する直前のプレーがフィールドのどの地点で発生したかをプロットすることとし、自陣と敵陣に分けて集計を行った。
<攻撃パターンの分析>
プレーヤーはパス、キック、コンタクトからプレーを選択し攻撃を行う。これらのプレーが、攻撃中に選択される回数の計測を行った。また、攻撃権を保有するチームの攻撃回数の分析を行った。
<守備パターンの分析>
守備は、タックルラインが攻撃側に推し進められたものと守備側に留められたものに分けることとした。セブンスにおいてどちらのディフェンスが用いられるかの分析を行った。

【結果と考察】
<試合のプレー時間の分析>
図1に勝敗別試合のプレー時間を示したものである。勝利チームが敗戦チームよりも有意に長く攻撃している結果となった。
<得点エリアの分析>
トライは自陣で6トライ、敵陣で27トライ発生した。敵陣からのトライ獲得数が自陣からトライの獲得数よりも有意に多い結果となった。
<攻撃パターンの分析>
攻撃のパターンで最も多く選択されたパスは194回(75%)であった。続いて、コンタクトは40回(19%)、キックは24回(6%)であった。攻撃継続回数は1.44回であった。
<守備パターンの分析>
タックルラインが守備側に留められて行われたケースが133件(57%)、攻撃側に推し進められたものが100件(43%)であった。

図1:試合のプレー時間

【総括】
攻撃と守備のどちらの場合も、相手とのスペースを保ちながらプレーしている結果となった。1度の攻撃でより遠い位置にボールを運ぶ戦術が必要である。

Ⅴ.参考文献
日比野弘・松元秀雄・山本巧(1998) ラグビーの作戦と戦術 早稲田大学出版部 11-28,83-94.
RUGBY WORLD CUP SEVENS 2009 STATICAL REVIEW MATCH SUMARY

なぜ,選択ルールが生れたのか ~ 最古のフットボール・ルールから考える ~

髙木應光(神戸居留地研究会)  星野繁一(龍谷大学)

キーワード:産業革命。アダム・スミス、J.ベンサム、T.アーノルド、時代思潮

【目的】
 ラグビーには、他種目と少々異なったルールがある。それは選択肢のあるルール(〔選択ルール〕と記す)である。大半のスポーツの場合、例えばAというミス・反則に対してA1という再開方法が設定されている。だがラグビーでは、それ以外にXというミス・反則に対してX1、X2、X3と2~3の選択肢から相手チームが選択して次のプレーを再開する方法が存在する。現行ルールでは、その数12にもなる。なぜ、このような〔選択ルール〕が生れたのだろうか、との疑問を持った。

【調査・考察方法】
 現在、世界にはフットボールと名のつく球技、即ちサッカー、アメリカン、カナディアン、オーストラリアン、ゲーリック、ラグビーのユニオン及びリーグ、計7つ存在する。これらの中で最古のルールは、ラグビールールである。1845年ラグビー校の「レヴェ」と呼ぶ最高学年クラスの会議で議決され成文化・印刷された“LOWS of FOOTBALL PLAYE At Rugby School”(1845年ルール)が、それである。〔選択ルール〕を含むこの最古のルールと現行ルール等を比較すると共に、当時のグラウンド環境や時代思潮が、〔選択ルール〕制定に影響を与えたのではないか、と仮定し考察してみた。

【時代の思潮】
 当時は産業革命が進展し、ブルジョワジーが英国社会の新しい支配層に成長しつつあった。彼らの思想的背景にはアダム・スミスやJ.ベンサムらが存在した。「一つの社会階級が絶大な自信を持って迷うことなく社会をリードし(略)英国の産業革命は、これに近い状態を産業資本家の為に作り出しつつあった。(略)彼らにとって利潤の追求に成功することは快楽であり、財産の損失は苦痛であった。」(山田英生)自由主義を土台として資本主義や功利主義思想が、この時代をリードしていたといえる。

【ラグビー校のグラウンド環境】
 1845年ルール18条には「木に当たってタッチとなったボール持つプレーヤーやボールと共に木に触れてタッチとなったプレーヤーは、木のどちら側からでもドロップキックを行っても良い」と、選択ルールの原型ともいうべきルールが存在していた。T.ヒューズ著『トム・ブラウンの学校生活』を読むと、楡の並木をタッチラインに利用していたことが分る。これが〔選択ルール〕誕生の理由の一つである。

【校長 T.アーノルド】
 校長T.アーノルドはブルジョワジーの思想に利己主義的な側面を発見し、それを嫌ったが、彼ら子弟の入学を優先させた。それはなぜか、文化・教養・品行を蔑視するブルジョワジーをキリスト教ジェントルマンに、真の指導者層に、位置づけることが英国社会とって最重要と考えたからである。即ち、彼らを体制内化することにより社会の安定・進歩を求めたのだった。
 校内でも「プレポスター=ファグ制度」を活用し、リーダーの最高学年生をアーノルド体制に組込み、学校紛争を他校に先駆けて解消した。その結果、フットボール等がより盛んになり、やがて校内の新しい秩序・雰囲気に合うような形で、選択ルールを含む最古の1845年ルールが成文化されたと考えられる。

ゴールデンオールディーズ・ワールドラグビーフェスティバル レフリングコンセプト考察

鈴木 道男 (どんぐりラグビークラブ)

キーワード   レフリング、生涯スポーツ、国際交流

【目的】 
日本発祥の「惑ラグビー」が世界に広まり、35歳以上~高齢者も楽しめるラグビーフェスティバルとして発展、1979年第一回ニュージーランド オークランド大会以来その人気の高まりと、開催都市への経済効果も期待されて発展してきた。2012年日本で初めて第19回大会として福岡市で開催され、その根幹となるゲームを安全に楽しく運用する独特で柔軟なレフリング運用を考察する。

【方法】 
ゴールデンオールディーズ・ワールドラグビーフェスティバル福岡2012年10月28日~11月4日までの期間にレフリー、選手として参加した。通常のラグビー協会主催のコンテストラグビーのゲームと異なり、これは幅広い年代、いろいろなスキルの参加者がエンジョイラグビーを楽しむものである。
(フェスティバル概要)
試合 3日間 (10月29日・31日、11月2日)
試合会場 三か所 (天然芝生グランド)10面
海の中道海浜公園        6面
鴈の巣レクリエーションセンター 2面
さわやかスポーツ広場      2面
参加者総数2,400名 海外 1,100名(17カ国)
国内 1,300名(九州600名)
平均年齢     60歳
試合数     106試合
レフリー  国内 77名 (九州協会70名)
海外 14名
パンツのカラー/ショーツ色規則に従って
タックルの可否を判断する。

年齢

パンツのカラー

タックル

59歳以下

チームのカラー

タックル可

59歳以下

タックル不可

ホールド可

60~64歳

タックル不可

ホールド可

65~69歳

イエロー

タックル 不可

ホールド 不可

70~79歳

パープル

タックル 不可

ホールド 不可

タッチ  不可

80歳以上

特別ショーツ

タックル 不可

ホールド 不可

タッチ  不可

 

ゲームレベルの設定(10段階)

レベル

目的

ゲーム内容

コンテストゲーム

IRB競技規則

2、3、4、5

ある程度真剣な ゲームを目的

ゴールデンオールディズルール

6、7、8、9、

楽しむ要素が強いゲームを目的

ゴールデンオールディズの中核

10

プレー参加が目的

社交的ゲーム

【結果と考察】 
ポイント ①安全第一で進行する
②オールディズ精神
   ③参加者すべてがゲームを楽しむ
(試合概要)
・レフリーと試合前の打ち合わせを十分に行う。
・ゲームの目的を確認する。
・ゲームレベル 1~10段階の確認。
・ローカルルールの確認。
・カラーパンツ 「赤」以上のタックル制限。
・20m以上走るとパスをする。
・kick off再開は、トライしたチームが行う。
・スクラム、ラインアウトはノンコンテスト実施。
・レフリーが声をかけてゲームを円滑に導く。
・「ギミック」 ロングスクラム(フロント一人の後ろに7人が縦に一列に並ぶ)や、「ショートラインアウト」(膝をついて並ぶ)などの「遊び」を仕掛けるチームをコントロールする。
・対戦アレンジは、海外チーム対日本チームが主体、複数チームのコンバインド編成も多い。
・華やかな開会式でフェスティバルを盛り上げる。
・市内パレード、ウェルカムパーティーを楽しむ。
・各日程試合後は統一会場ファンクションで交流。
・正装、ディナーコース料理の閉会式。
・深夜までのダンスパーティーを楽しむ。
・チームや選手が記念品などのプレゼント交換。
柔軟なルール適用ですべての参加選手がボールを持って走る、パスをする、受ける、あたる、それぞれのエッセンスを楽しむことができた。ゲームと交流パーティーで国際親善、ラガーの友情を深めることができた。

【まとめ】
柔軟なレフリングを適用したフェスティバル開催で、新しい生涯スポーツのあり方を提案できた。また家族を含めた幅広い年齢層を取り込み、社会に貢献し、心豊かなスポーツ文化としてラグビー活性化につながる。

ラグビー選手におけるメンタルコーチングの効果

高田正義(愛知学院大学)

キーワード:メンタルコーチングの効果、意識変化、チームの状況

【目的】
メンタルコーチングについては、実践的アプローチを継続し本学会でも報告してきた。それらによると、試合直前の短期間メンタルコーチンには一定の効果があることが示唆されている。しかしながら、選手の「何」が「どのよう」に変化したのかが明確とはなっていない。
そこで、今回は選手が毎日記録する練習日誌の自己評価を指標として捉えることにした。これにより、選手の意識の変化を客観的に評価することができる。また、メンタルコーチングによって、選手が「何」に意識を向け、「どのよう」に変化したのかが予測できると考えた。
本研究は選手の意識変化検討することで、その効果を明らかにすることを目的とする。

【手続き】
日   程:平成2x年8月y日~y+2日まで。
場   所:A大学
対 象 者:日本代表選手U○ 22名
調   査:練習日誌による自己評価
処   理:IBM SPSS StatisticによるWilcoxon
の符号付き順位検定を行った。
【結果と考察】
各項目における正規性の検定を行ったところ、ほとんどの項目で「正規性に従わない」と判断された。したがって、t検定は使えないと判断しWilcoxonの符号付き順位検定を行った。表1には各項目の2日間おける変化率に対する漸近有意確率が記されている。これによると、有意差が検出されたのは心理的(p<.01)、練習内容(p<.05)、チーム状態(p<.001)、食事(p<.01)、練習以外の生活(p<.05)であり、すべての項目において1日目より2日目の方が高い値を示した。
以上ことから、2日間のメンタルコーチングによって、選手意識が向上したことが示唆される。特筆すべき点は、「チーム状態」の項目である。今回の試合直前のメンタルコーチングにおいては、チームビルディングを念頭に置いたアプローチを意図している。その効果が、データの上でも表れていることが推察できる。

【まとめ】
試合直前の短期間メンタルコーチングでは、以下のことが示唆された。
1、 有意差が検出されたのは心理的、練習内容、チーム状態、食事、練習以外の生活であり、すべての項目において1日目より2日目の方が高い値を示した。
2、 メンタルコーチングによって、選手の意識が向上したといえる。
3、 チームの状態の変化率が最も顕著であり、チームビルディンが成功したことが窺える。

表1. Wilcoxon の符号付き順位検定による

各項目の比較

項目

日程

Z

漸近有意確率

1

心理的

1日目

-2.676

.007

**

2日目

2

身体的

1日目

-0.635

.526

2日目

3

練習内容

1日目

-2.000

.046

2日目

4

コーチの指導

1日目

-0.910

.363

2日目

5

チームの状態

1日目

-3.782

.000

***

2日目

6

食事

1日目

-2.758

.006

**

2日目

7

知的興味

1日目

-0.637

.524

2日目

8

練習以外の生活

1日目

-2.138

.033

2日目

*** p<.001  ** p<.01  * p<.05

大学ラグビーの将来を考える -全国大学ラグビー選手権開催方式に着目して-

寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)、岡本昌也(愛知工業大学)、高田正義(愛知学院大学)

キーワード:全国大学ラグビー選手権、開催方式、地域リーグ

【はじめに】
第49回全国大学選手権は帝京大学が前人未到の4連覇という偉業を成し遂げた。一方、今回の大学選手権は従来の開催方式を大きく変更して行われた。今回の改訂は日本協会によると「大学選手権の試合数を増やして大学のレベルアップを図ること」がその目的ということだが、果たしてそれは達成できたのか?
本稿では、全国大学選手権の開催方式について過去の大会をさかのぼってみながら、それを検証すると同時に日本の大学ラグビーの将来について考えてみる。

【開催方式の変遷】
全国大学選手権が誕生したのは、長年続いた正月の東西大学定期戦シリーズに終止符を打って関東代表2校、関西代表2校の合計4校により、東西大学ラグビー選手権として開催された1964年度である。翌年には代表枠を関東代表4校、関西代表3校(関西第三代表は東海の優勝校と代表決定戦)、九州代表1校の合計8校に拡大し、また大会名称も全国学生ラグビー選手権と改称した。その後1993年度の第30回大会より出場校は16校に増え、今年度の第49回大会から19校となった。
加えて対戦方式も従来はトーナメント方式が当たり前であった。(2003年度の第40回大会だけは16出場校が第1回戦後、4チームずつのプールに分かれ、リーグ戦方式で対戦の後、準決勝からは再度4校によるトーナメント戦を実施した。)それが今回は従来と比べて大幅な変更を行った。
改訂のポイントは以下の3点である。
①出場校の拡大
②第1~第3段階のステージ制導入
③準決勝での抽選導入 
①出場校の拡大
これまでは関東協会枠、関西協会枠という地域ごとの代表決定戦に勝利しなければならなかった「東北・北海道代表」と「東海北陸・中国四国代表」という地方勢の代表を「大学選手権出場」というステータスに格上げし、出場校を全国に拡大した。
②第1~第3段階のステージ制導入
上記の「東北・北海道代表」、「東海北陸・中国四国代表」の2枠に「九州代表」の1枠とあわせた三地域代表枠の3校が「ファーストステージ(以下、1stステージ)」としてリーグ戦方式により対戦することとした。
 そしてセカンドステージ(以下、2ndステージ)は、関東大学対抗戦A上位5校、関東大学リーグ戦1部上位5校、関西大学Aリーグ上位5校に1stステージの優勝チーム1校を加えた16校で4プールに分かれてのリーグ戦方式により対戦することとした。
③準決勝での抽選導入
ファイナルステージは、2ndステージにおける各プール1位チーム4校が抽選によるトーナメント戦により優勝校を決定する方式となった。

【考察】
 今回の開催方式の変更については、すでにラグビー専門誌等でもその是非が検証されている。
 特にセカンドステージは新制度の核心部分といえるのだが、ここで導入されたボーナスポイントを含む勝ち点制と各所属リーグの順位によるアドバンテージポイントの採用については、疑問の声が少なくない。さらにセカンドステージからファイナルステージに勝ち進めるのが各プールの1位のみという点も結果的に消化試合を増やしただけではないかと指摘されている。
 また1stステージ開催に伴う地域リーグへの影響についても検証してみる。
例えば東海学生ラグビーリーグでは、従来は東海学生リーグを制した後、「中国・四国代表」と対戦し、さらに関西大学Aリーグ5位との代表決定戦に勝利しなければ大学選手権出場はかなわなかった。今回の新制度では、東海学生リーグの後、「中国・四国代表」との試合に勝利することで1stステージ出場=大学選手権出場というステータスが得られることになった。しかし、第3段階のステージ制を導入したことにより、大学選手権にかかる期間が長くなったにもかかわらず、準決勝以降の試合日程が従来どおりと変わらないために、1stステージ第1週の開始が11月第3週に設定されることとなった。それに伴い、東海学生リーグは11月第1週にA1リーグの優勝を決めざるを得ないこととなった。その他にも1stステージ出場校はそれまでの代表決定戦とは違い、関東、関西、九州という広範囲へ移動して試合をしなければならず、遠征費用はもとより宿泊先及び練習場所の確保等、あらたなハードルもクリアしなければならなくなった。
もちろん新制度がもたらしたメリットが無いわけではない。学会当日はさらに具体的な事例を検証しながら、今回の大学選手権開催方式変更の是非について論じたい。

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