立位姿勢における静的および動的平衡性の分析~ラクビ-スク-ルのこどもを対象として~

灘 英世(関西大学) 新宅 幸憲(びわこ成蹊スポ-ツ大学)
溝畑 潤(関西学院大学) 溝畑 寛治(関西大学)

キ-ワ-ド:立位姿勢 静的 動的 平衡性 ラクビ—スク—ル

【目的】
 近年、姿勢および環境変化が原因の立ち眩みや、若年性腰痛も目立つようになってきた。それらの問題は、将来のこどもの体力や立位姿勢の安定性の欠如に警鐘を鳴らすものである。生活様式の利便性の追求や身体運動の不足によって、立位姿勢が不安定になってきている。立位姿勢は、物理的に不安定要素を含んでおり、その立位姿勢を抗重力筋の活動、各関節の柔軟性などの生体情報を重心動揺に変換することによって、平衡機能や体力として評価されるものと考えられる。それらのことに着目して、定期的にラクビ-スク-ルに通うこどもを対象に、立位姿勢の静的および動的平衡性の分析を試みた。

【対象および方法】
kラクビ-スク-ルの子ども17名(平均年齢 9.3±1.8歳、平均身長 135.1±12.1㎝、平均体重32.9±9.2㎏)、o市立k小学校の子ども17名(平均年齢 9.6±1.8歳、平均身長 135.7±11.6㎝、体重 32.3±9.5㎏)であった。
 立位姿勢における重心動揺測定は、アニマ(株)製重心動揺計ポ-タブルグラビコ-ダ-(GS-7)を用いて、開眼および閉眼にて重心動揺の「総軌跡長」、「単位時間軌跡長」、「単位面積軌跡長」、「外周面積」の4項目を各30秒間行った。動的平衡性の測定については、被験者の前に角度を変えて、3つのカラ-コ-ンを置き、30秒間に46拍のテンポでコ—ンに足部でタッチをさせた。測定項目は、立位姿勢の項目と同様であるが、立位姿勢の項目とは別に「重心平均中心変位MX」、「重心動揺平均変位MY」,「重心平均中心点変位XO」、「重心平均中心点変位YO」の前後動を測定した。運動能力としては、30m走を行った。うつ伏せ体勢から起き上がり、ジグザグに並べられたコ—ンにタッチし、30m走を行わせた。

【結果および考察】
図1は、動的平衡性における重心動揺の中心変位YO(前後動)を示したものである。

図1 動的平衡性の重心中心変位YO(前後動) (**P<0.01)

動的平衡性の前後動において、ラクビ-スク-ルの子どもと同年齢の子どもとの両者間に有意な差(P<0.01)が認められた。これらのことから、ラクビ-フットボ—ルの運動特性である敏捷性、特にステップなどの外乱に対応する動作の連続が体幹機能を高め、足関節を支点としてその周辺の筋力に影響を与えているものと推察された。動的な姿勢制御において前後動を安定させると考えられる内側腓腹筋、およびヒラメ筋の発達が示唆された。 【まとめ】 ラクビ—フットボ—ルをとおした身体運動の継続が、動的平衡性の機能向上に寄与するものと推察された。 参考文献   溝畑 潤(2007) 重心動揺と運動能力の関係について:大学生ラクビ-選手の重心動揺および運動能力の測定結果から スポ-ツ科学・健康科学研究10、15-22

京都産業大学ラグビー部員の体力推移-3年目の検証-

淡路靖弘(京都産業大学ラグビー部) 大西健(京都産業大学)溝畑 潤(関西学院大学)

キーワード:身体組成、筋力、心肺機能

【目的】
ラグビーの競技特性として80分間にわたる豊富な運動量、コンタクト時における接点の強さが勝敗に大きく影響される。この身体的優位を基にチームの戦術も確立されることとなる。近年大学ラグビー界における上位校の選手各人は大型化の傾向が見られ尚且つ様々な局面に対して運動量を落とすことなくチーム戦術を遂行している。本研究は京都産業大学ラグビー部において全国大学選手権ベスト4に進出した当時のレギュラー選手の体力(身体組成、筋力、心肺機能)と
全国大学選手権出場を逃した昨年度のレギュラー選手の体力を比較し差異を検証することとする。

【調査方法】
京都産業大学ラグビー部における全国大学選手権ベスト4のレギュラーメンバー15名と昨年のレギュラーメンバー15名を対象にし以下の項目を比較検証した。
1) 心肺機能
心肺機能の差異の検証には3,000m走のタイムを測定した。
2) 筋力
筋力トレーニングは週5回の朝練習を行いベンチプレス、スクワットの1RMを測定した。
3) 身体組成(体格)
体格の検証として身体組成の計測を行った。身体組成は4月、6月、10月の計3回にわたり各選手の身長、体重、体脂肪率を測定した。
体脂肪率の測定はキャリパー法を用い、2点法にて測定することとした。

【結果と考察】
1) 心肺機能において全国大学選手権ベスト4レギュラー選手が昨年度のレギュラー選手よりもFW, BKともに優れていることが判明した。
2)筋力においては全国大学選手権ベスト4のレギュラーFWが昨年度のレギュラーFW選手よりも圧倒的優位差を示すとともにBKにおいても有意差を示した。
3)身体組成(体格)の比較では体重においてはFWの比較においてフロントローの体格差が顕著である。ルーズヘッドの体重差20kg、ルーズヘッドに至っては30kgの体重差が確認された。一方体脂肪率においてはFW,BKともに有意差は認められなかった。

【まとめ】
心肺機能、筋力、身体組成の3つの項目において全ての面でベスト4メンバーのFW陣の体力差は顕著に有意差を示した。一方BK陣においては心肺機能、筋力の面でベスト4メンバーが有意差を示したが身体組成の面では有意差は認められなかった。京都産業大学ラグビー部はFWの強みを十分に発揮しスクラム、モールで優位に立ちその有意差を前面に押し出した戦いをチームの伝統としている。昨年のレギュラーメンバーの体力は包括的にベスト4メンバーの体力と比較し劣っていたことが考察できる。これを踏まえ今後のチーム作りにおいて体力の底上げが必要不可欠であることがわかる。

総合型地域スポーツクラブにおけるタグラグビー教室の試み

青石哲也(愛知学院大学)、桑田真吾(愛知学院大学大学院)、
菅野昌明(愛知学院大学)、高田正義(愛知学院大学)

キーワード:総合型地域スポーツクラブ、タグラグビー、大学との連携

【目的】
 総合型地域スポーツクラブとは、人々が身近な地域でスポーツを楽しむことが出来る、新しいタイプのスポーツクラブである。文部科学省が提唱する中、現在数多くのスポーツクラブが各地域に設立されている。愛知県日進市でも、平成24年に誕生した。
 その中で、今回はタグラグビー体験会を行った。ラグビー愛好者の底辺拡大と、運動離れしている子供に対してスポーツの楽しさを再発見してもらうことをテーマとした。特に、大学との連携を基に優れた環境と、現役大学生との触れ合い、また体力測定などを同時に実施した。
 本研究は実施報告を兼ね、事後アンケートからどのような傾向があるかを検討することを目的とする。

【手続き】
日   程:平成24年10月13日(土)14:00~
場   所:A大学 ラグビー場
対 象 者:幼児から中学生(15名)
調   査:事後アンケート

【結果と考察】
 参加者の属性は、図1に示した通りである。中学生が4名参加してくれたことで、統制が取り易かった。また、図2に示されているように、参加者は全体的に楽しかったという感想であった。スタッフとして参加した大学生も、高い評価を得ることが出来た(図3参照)。保護者の皆さんの評価も高く、初の試みとしては成功したと考えて良さそうである。



【まとめ】
①実験的に行った「タグラグビー体験会」であっ
たが、予想以上に楽しんでもらえた。
②地域による「スポーツ教育」の在り方の一つとし
て、大学との連携は重要であるといえる。

7人制ラグビーのゲーム分析 ―ディフェンスに着目して―

岡西 康法(大阪体育大学大学院) 梅林 薫(大阪体育大学) 石川 昌紀(大阪体育大学)

キーワード:ラグビー,セブンス,ゲーム分析

【はじめに】
2016年のリオデジャネイロオリンピックにおいて7人制ラグビー(以下 セブンス)が、男女ともに正式競技として採用されることが決まり、近年セブンスは日本国内で注目されつつある。それに伴い、東京ラウンドが2012年の3月から国際大会に再び組み込まれた。本研究は、男子におけるエリートチームのセブンスの試合を対象とし、ゲーム分析を行い、セブンスの特徴を明らかにし、攻撃と守備の戦術を検討することを目的とした。

【方法】
IRBワールドセブンスシリーズの2012年ニュージーランドで行われた8試合を対象とし、録画された映像を用いて分析を行った。分析した項目は、試合のプレー時間、得点エリア、攻撃パターン、守備パターンである。

<試合のプレー時間の分析>
試合時間は、Windows Media Playerのタイムカウンターを利用し、実際のプレー時間を計測した。また、勝敗ごとに攻撃に費やした時間を計測することとした。
<得点エリアの分析>
得点のエリア分析は、トライが発生する直前のプレーがフィールドのどの地点で発生したかをプロットすることとし、自陣と敵陣に分けて集計を行った。
<攻撃パターンの分析>
プレーヤーはパス、キック、コンタクトからプレーを選択し攻撃を行う。これらのプレーが、攻撃中に選択される回数の計測を行った。また、攻撃権を保有するチームの攻撃回数の分析を行った。
<守備パターンの分析>
守備は、タックルラインが攻撃側に推し進められたものと守備側に留められたものに分けることとした。セブンスにおいてどちらのディフェンスが用いられるかの分析を行った。

【結果と考察】
<試合のプレー時間の分析>
図1に勝敗別試合のプレー時間を示したものである。勝利チームが敗戦チームよりも有意に長く攻撃している結果となった。
<得点エリアの分析>
トライは自陣で6トライ、敵陣で27トライ発生した。敵陣からのトライ獲得数が自陣からトライの獲得数よりも有意に多い結果となった。
<攻撃パターンの分析>
攻撃のパターンで最も多く選択されたパスは194回(75%)であった。続いて、コンタクトは40回(19%)、キックは24回(6%)であった。攻撃継続回数は1.44回であった。
<守備パターンの分析>
タックルラインが守備側に留められて行われたケースが133件(57%)、攻撃側に推し進められたものが100件(43%)であった。

図1:試合のプレー時間

【総括】
攻撃と守備のどちらの場合も、相手とのスペースを保ちながらプレーしている結果となった。1度の攻撃でより遠い位置にボールを運ぶ戦術が必要である。

Ⅴ.参考文献
日比野弘・松元秀雄・山本巧(1998) ラグビーの作戦と戦術 早稲田大学出版部 11-28,83-94.
RUGBY WORLD CUP SEVENS 2009 STATICAL REVIEW MATCH SUMARY

なぜ,選択ルールが生れたのか ~ 最古のフットボール・ルールから考える ~

髙木應光(神戸居留地研究会)  星野繁一(龍谷大学)

キーワード:産業革命。アダム・スミス、J.ベンサム、T.アーノルド、時代思潮

【目的】
 ラグビーには、他種目と少々異なったルールがある。それは選択肢のあるルール(〔選択ルール〕と記す)である。大半のスポーツの場合、例えばAというミス・反則に対してA1という再開方法が設定されている。だがラグビーでは、それ以外にXというミス・反則に対してX1、X2、X3と2~3の選択肢から相手チームが選択して次のプレーを再開する方法が存在する。現行ルールでは、その数12にもなる。なぜ、このような〔選択ルール〕が生れたのだろうか、との疑問を持った。

【調査・考察方法】
 現在、世界にはフットボールと名のつく球技、即ちサッカー、アメリカン、カナディアン、オーストラリアン、ゲーリック、ラグビーのユニオン及びリーグ、計7つ存在する。これらの中で最古のルールは、ラグビールールである。1845年ラグビー校の「レヴェ」と呼ぶ最高学年クラスの会議で議決され成文化・印刷された“LOWS of FOOTBALL PLAYE At Rugby School”(1845年ルール)が、それである。〔選択ルール〕を含むこの最古のルールと現行ルール等を比較すると共に、当時のグラウンド環境や時代思潮が、〔選択ルール〕制定に影響を与えたのではないか、と仮定し考察してみた。

【時代の思潮】
 当時は産業革命が進展し、ブルジョワジーが英国社会の新しい支配層に成長しつつあった。彼らの思想的背景にはアダム・スミスやJ.ベンサムらが存在した。「一つの社会階級が絶大な自信を持って迷うことなく社会をリードし(略)英国の産業革命は、これに近い状態を産業資本家の為に作り出しつつあった。(略)彼らにとって利潤の追求に成功することは快楽であり、財産の損失は苦痛であった。」(山田英生)自由主義を土台として資本主義や功利主義思想が、この時代をリードしていたといえる。

【ラグビー校のグラウンド環境】
 1845年ルール18条には「木に当たってタッチとなったボール持つプレーヤーやボールと共に木に触れてタッチとなったプレーヤーは、木のどちら側からでもドロップキックを行っても良い」と、選択ルールの原型ともいうべきルールが存在していた。T.ヒューズ著『トム・ブラウンの学校生活』を読むと、楡の並木をタッチラインに利用していたことが分る。これが〔選択ルール〕誕生の理由の一つである。

【校長 T.アーノルド】
 校長T.アーノルドはブルジョワジーの思想に利己主義的な側面を発見し、それを嫌ったが、彼ら子弟の入学を優先させた。それはなぜか、文化・教養・品行を蔑視するブルジョワジーをキリスト教ジェントルマンに、真の指導者層に、位置づけることが英国社会とって最重要と考えたからである。即ち、彼らを体制内化することにより社会の安定・進歩を求めたのだった。
 校内でも「プレポスター=ファグ制度」を活用し、リーダーの最高学年生をアーノルド体制に組込み、学校紛争を他校に先駆けて解消した。その結果、フットボール等がより盛んになり、やがて校内の新しい秩序・雰囲気に合うような形で、選択ルールを含む最古の1845年ルールが成文化されたと考えられる。

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