京都産業大学ラグビー部員の体力推移

-2年目の検証-

淡路靖弘(京都産業大学ラグビー部) 大西健(京都産業大学)

キーワード:心肺機能、筋力、身体組成

【目的】
ラグビーフットボール競技において求められる要素は80分間走り続ける走力、相手選手に打ち勝つ接点の強さ及び筋力である。これらの体力が礎となり個人のスキル及びチーム戦術が構築されると考えられる。近年の上位大学の選手は優れた心肺機能、筋力、体格の大きさを有し、チームとして結実し優秀な戦績を収めている。
 本研究は一昨年からの選手の体力の強化を図り、全国大学選手権出場を果たした一昨年のレギュラー選手と昨年全国大学選手権に出場できなかったレギュラー選手の体力の比較を行い差異を検証するものとする。

【調査方法】
京都産業大学ラグビー部における一昨年のレギュラー15名、昨年のレギュラー15名を対象にし以下の項目を調査した。

1) 心肺機能
心肺機能向上のトレーニングではボールを用いてピックアップと呼ばれる京都産業大学ラグビー部独自のランニングメニューを敢行した。トレーニング効果を確認する為に、3000m走のタイムトライアルを実施した。
2) 筋力
筋力トレーニングは週5回の朝練習としてウエイトトレーニングを実施した。
3) 身体組成(体格)
体格の検証として身体組成の計測を行った。身体組成は4月、6月、10月の計3回にわたり各選手の身長、体重、体脂肪率を測定した。体脂肪率の測定はキャリパー法を用い、2点法にて測定することとした。

【結果と考察】
1) 心肺機能において一昨年のレギュラー群が昨年のレギュラー群よりもFW, BKともに優れていることが判明した。
2)筋力の有意差においては顕著な差異はみられなかった。
3)身体組成(体格)の比較では一昨年のレギュラー群が圧倒的に優位さを示している。特にFWの比較においてフロントーローの体格差が顕著である。タイトヘッドの体重差15kg、ルーズヘッドに至っては20kgの体重差が確認された。またセカンドロー、バックローとの比較においても一昨年のレギュラー群の方が有意差を示している。

【まとめ】
心肺機能、筋力、身体組成の3つの項目において全ての面で一昨年のレギュラー群が昨年のレギュラー群よりも優位さを示した。特に身体組成の面で顕著に差異が表れ、FWのサイズの差がチームにおいて大きなマイナス面となったことが言える。京都産業大学ラグビー部はFWの強みを十分に発揮しスクラム、モールで優位に立ちその有意差を前面に押し出した戦いをチームの伝統としており昨年のFWの小粒化はチーム戦略上痛手となったことはいうまでもない。これを教訓とし今年はFWのみならずBK共に他校以上の走力、筋力、体格を持ち合わせたチームを構築する必要があるであろう。

ユーティライゼーションを利用したメンタルコーチング

高田正義(愛知学院大学)

キーワード:メンタルコーチング、実力発揮、ユーティライゼーション

【目的】
 試合直前にメンタルスキルの指導をするという性質上、短期間のメンタルトレーニングをメンタルコーチングという名称でアプローチしてきた。メンタルコーチングで必要とされる要因は、本番における「実力の発揮」であるといえる。選抜チームの持つメンタリティーを生かし(ユーティライゼーション)、選手が持っている本来の力をチームワークとして十分に発揮させる事が目的となろう。
 平成21年に引き続き、日本代表U○○のメンタルコーチングを行なった。今回は、前回の代表選手と比較しながら、今後の方向性を検討する。

【手続き】
日程:平成23年8月19日~21日
場所:A大学
対 象 者:日本代表選手22名

【結果と考察】
メンタルコーチングを始める前と後では、100%の選手が考え方や練習に変化があったと答えている。その内容は、「リラックスが出来た」、「集中できた」、「ノリが良くなった」などであり、プラスのエネルギーが発揮されやすい状態が作られていると言える。
図1 メンタルトレーニングの効果
図1 メンタルトレーニングの効果

図2 役に立ったスキル
図2 役に立ったスキル

役に立ったスキルは、目標設定、リラクゼーション、プラス思考などであった。今回の選手は、リラックスや集中力における効果を感じる傾向が顕著であると言える。

 今回の国際試合は、日本が開催国であった。そういう意味では、リラックスや集中力は維持できると考えられる。しかしながら、実際には緊張感が高く、集中力を欠いていた様な結果となった。前回と比較して今回は、日本協会が求める選手像が抽象的に伝達された印象があった。代表選手として強化する方向性をラグビーのスキルのみならず、精神的スキルでも一貫指導していく必要がありそうである。

【まとめ】
 短期間で実力を発揮させる為に、ユーティライゼーションというテクニックを使いメンタルコーチングを行なった。その結果、以下のことが示唆された。
1.タルコーチングを実施する前後では、100%の選手が考え方や練習に変化があったと認めている。
2.ラックスが出来た」、「集中できた」、「ノリが良くなった」など、プラスのエネルギーが発揮されやすい心理状態が作られている。
3.、ラグビー選手に求められるメンタルスキルは、目標設定、リラクゼーション、プラス思考であった。

血清SH基にみるラグビー合宿の変遷

―ラグビーの夏合宿は根性合宿から計算された機能的合宿へと変貌してきた?―

中上 寧(藤田保健衛生大学) 岡本昌也(愛知工業大学)
寺田泰人(名古屋経済大学) 高津浩彰(豊田工業高等専門学校)

キーワード:ラグビー夏季合宿、運動ストレス緩衝、血清SH基変動、血清中酵素変動

【目的】
 血清SH基には、運動ストレスや酸化ストレスを緩和する働きを持つF-SH、ストレス物質と弱い結合をしその作用を緩衝しているOx-SH(B-SH)、ストレス物質と強い結合をしその作用を緩衝しているTCEP-SHに分類される。われわれの研究の結果、F-SHは強力な有酸素運動や高濃度酸素環境下で増加し、高濃度二酸化炭素環境下(血液pHの低下)で減少することが分かっている。さらにこれらを利用して、ラグビーの夏季合宿を利用して血清SH基を測定し、チームレベルの違いがF-SHの増減、Ox-SH(B-SH)の増減が生じることを第2回ラグビー学会大会において報告した。

 一方、運動ストレスが生体に及ぼす影響を知る方法としては、血清中酵素を生化学的に分析する方法が一般的であり、これらについては従前から多くの報告がある。我々も夏合宿の前後の血清生化学データを測定し、チームのレベルにより、心、肝、筋由来の酵素の変動に増減が生じることを報告してきた。

 今回、前回の報告の折には不可能であったTCEP-SHが測定できるようになったので、再度、夏合宿を利用して血清SH基の測定および血清中酵素の測定を行い、興味深いデーターを得たので報告する。

【対象と方法】
 東海学生ラグビーリーグA1リーグのAチーム(n=30)、A2リーグのBチーム(n=32)、CリーグのCチーム(n=10)の夏合宿前後に採血を行い、血清SH基と血清中酵素であるAST、ALT、LDH、CHE、CKの測定を行った。血清SH基の測定は我々が開発したDTNB変法およびTCEP-Gel法を用いた。合宿に当たって練習内容、練習時間には制限をせず、前回同様各チームにお任せした。

【結 果】
 前回の研究実施(2003年)時にはAチームにおいて減少していたF-SHが、差はあるものの3チームとも減少していた。前回、Aチームのみが増加し他の2チームが減少を示したOx-SHはAチーム≧Bチーム>Cチームの順で増加を示した。今回初めて測定したTCEP-SHはAチーム≦Bチーム<Cチームの順に増加を示した。血清中酵素の増減は程度の差はありものの、前回と同じ傾向を示した。

【考 察】
 前回報告した、チームレベルの差が血清SH基の変動の差として現れるというのは間違いであった。合宿における練習量等の差が、血清SH基変動の差として現れるものと考えられる。また、チームレベルの差が表れるのは運動ストレス、酸化ストレスを緩衝するOx-SH、TCEP-SHの変動に現れ、レベルの高いチームは運動ストレス、酸化ストレスをOx-SHとして緩衝し、レベルの低いチームはTCEP-SHとして緩衝することが示唆された。チームレベルの差は血清中酵素の変動の差としてとして現れることが示唆された。

ルールに対する倫理観

~ 反則についてのアンケートから ~

星野繁一(龍谷大学) 髙木應光(NPO神戸居留地研究会)

キーワード:反則、マナー、ロー、ルール、危機感

【目的】
最近ラガーマンの不祥事が目立つ。また試合中にガッツポーズをする者、レフリーに抗議する者などもいる。倫理観の劣化したラガーマンの増加が気にかかる。そこでルールに対するアンケートを実施し、倫理観などを分析してみた。

【調査方法】
先行研究は少々古いが、木幡日出男(現成徳大学教授)「ファウルついての考え方~中学生サッカー選手の調査から」(1989年サッカー医・科学研究会)をベースにアンケート票を作成した。関西学生リーグの6大学319、大阪・兵庫の中高生131、スクール・高校指導者70、総計520名からアンケートを回収し集計結果を得た。

【結果と考察】
アンケート結果を5つの分野に分け、大学生を中心に中高生や指導者の結果と対比させながら分析・考察を試みた。
(*①~⑲は質問番号、質問票は別紙)
1)プレーヤーとレフリー
②レフリーの判定について、不服とする学生が実に91.8%もいたが、③判定には一応素直に従っている、という者が79.6%・8割もいた。
2)遵法精神
⑪レフリーに見つからないように、とする学生が44.2%と驚かされる。明らさまに⑬退場やイエローカードにならない限り、と開き直る学生は8.2%と少ない。一方⑥戦術としての反則、に反対する者が63.9%と多い。即ちチームではなく個々が隠れて反則することを是としている。サッカーと比べ反則が見えにくいラグビーでは遵法精神やフェアプレー精神がなければ試合が成立たないとの理解に欠ける学生が多い。
3)スポーツマンシップ
⑭スポーツマンシップを心がけて試合する、には75.9%の学生が賛成としているが、⑮スポーツマンなら反則しないのは当然、には37.9%の賛成しかない。スポーツマンシップとは反則しないのは勿論のこと、相手やレフリーにも敬意を持って試合に臨むことである。
4)反則と勝敗
⑲反則と勝利の間で「B分らない」と迷い悩む回答は中高生で25.2%、だが大学生は42.0%と多い。とは言え⑨勝つためには反則も必要⑲反則してでも勝利を求める、という学生は⑨37.6%⑲36.7%と4割近い。これに反対する中高生⑨67.2%⑲61.1%指導者⑨88.6%⑲81.4%とは非常に大きな差がある。いかに大学生たちの間に勝利至上主義が蔓延しているかが分る。“Good looser”は死語となったのだろうか。
5)ラグビーの目的
⑰一番大切なことは勝利ではない、に反対する学生が49.5%に対し指導者は52.9%と全く逆な回答が示されている。大学生は勝利を最終目的にしていて、目的と手段(目標=勝利)が本末転倒の状況にある。あくまでも結果を求められるプロと同様、勝利至上主義に陥っているといえる。

【まとめ】
 倫理観を問うた⑥~⑲の中で大学生が「B分らない」と答えた項目が非常に多い。Bが最多数(40~47.3%)を占めたのが⑥⑮⑯⑱⑲の5項目、同様Bが30%以上の項目が6つ,計11項目もあった。即ちルールに対して迷い悩み葛藤し、倫理観が劣化している学生が多数存在する。ここに指導の余地があるのではないか。温故知新、ラグビーは英国パブリックスクールに於いてジェントルマンを育てるためのスポーツとして行われてきた。悩み多き迷える学生ラガーマンを救えるのは、ラグビー界の大人でしかない。現状のままでは、更なる勝利至上主義・商業主義・拝金主義、そして筋肉増強剤・薬物使用が、はびこるのは時間の問題であり不祥事も益々増えるであろう。

トップリーグの観客動員の変化について

高津浩彰(豊田工業高等専門学校)岡本昌也(愛知工業大学)

キーワード:トップリーグ 観客動員 人気

【はじめに】
 2011年第7回のラグビーワールドカップが開催され、開催国のニュージーランドの優勝で幕を閉じた。大会は、世界から多くの人が集まり盛大な大会となった。日本において2019年にワールドカップ開催が予定されており、ニュージーランド大会同様に、多くの人々が世界各国から試合を観戦するために来日することが予想される。一方で、日本におけるラグビー人気はニュージーランドやラグビー先進国に比べると劣るものがあり、ワールドカップを迎える国として改善しなければならないことはたくさんあると考えられる。特に、収益のことを考えると、スーパー15においては競技場での多数の観戦者があり、人気もありチケットやグッズによる収益も得ている。日本においても2003年からトップリーグが行われ、日本における最高峰のリーグとして我が国のラグビーの発展に貢献してきている。しかし、その人気については、我が国の野球やサッカーに比べ劣っているのが現状で、スーパー15に比べても人気は格段の差がある。ワールドカップ成功のためにはラグビーの人気増加が必要不可欠なことであり、その策を考えることは大切なことである。人気の1つの指標として観客動員が考えられ、観客動員の増加は人気の上昇とも考えられる。
 本研究では、日本のトップリーグの観客動員の変化について調査し、人気の変化について検討する。なお、本研究では、観客動員が多いということは人気があるという仮定のもとで調査を進めた。

【方 法】
 2003年から2011年までのトップリーグの観客動員記録をもとに観客動員数を調べ、その変化について検討した。また、メイン会場(関西、関東)、地方会場の3つに分け、観客動員の調査も行った。

【結果と考察】
 観客動員の変化について図1に示した。

図1 トップリーグ観客動員数の変化

観客総動員数は、2003年の開幕から2005年まで減少し、
その後、緩やかではあるが増加している。

各会場の観客動員の変化について図2に示した。

図2 各会場の観客動員の変化
関東のメイン会場では2003年から2005年にかけて減少し、2010年までに開幕年と同じぐらいに回復している。関西メイン会場については、2005年まで減少しほとんど回復していない。地方会場については、年々増加している。

【まとめ】
 トップリーグの観客動員の変化について調査したところ、観客動員はトップリーグ開始当初よりも増加していることが示唆された。また、地方会場における観客動員数が増加していることが明らかになった。

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