血清SH基にみるラグビー合宿の変遷

―ラグビーの夏合宿は根性合宿から計算された機能的合宿へと変貌してきた?―

中上 寧(藤田保健衛生大学) 岡本昌也(愛知工業大学)
寺田泰人(名古屋経済大学) 高津浩彰(豊田工業高等専門学校)

キーワード:ラグビー夏季合宿、運動ストレス緩衝、血清SH基変動、血清中酵素変動

【目的】
 血清SH基には、運動ストレスや酸化ストレスを緩和する働きを持つF-SH、ストレス物質と弱い結合をしその作用を緩衝しているOx-SH(B-SH)、ストレス物質と強い結合をしその作用を緩衝しているTCEP-SHに分類される。われわれの研究の結果、F-SHは強力な有酸素運動や高濃度酸素環境下で増加し、高濃度二酸化炭素環境下(血液pHの低下)で減少することが分かっている。さらにこれらを利用して、ラグビーの夏季合宿を利用して血清SH基を測定し、チームレベルの違いがF-SHの増減、Ox-SH(B-SH)の増減が生じることを第2回ラグビー学会大会において報告した。

 一方、運動ストレスが生体に及ぼす影響を知る方法としては、血清中酵素を生化学的に分析する方法が一般的であり、これらについては従前から多くの報告がある。我々も夏合宿の前後の血清生化学データを測定し、チームのレベルにより、心、肝、筋由来の酵素の変動に増減が生じることを報告してきた。

 今回、前回の報告の折には不可能であったTCEP-SHが測定できるようになったので、再度、夏合宿を利用して血清SH基の測定および血清中酵素の測定を行い、興味深いデーターを得たので報告する。

【対象と方法】
 東海学生ラグビーリーグA1リーグのAチーム(n=30)、A2リーグのBチーム(n=32)、CリーグのCチーム(n=10)の夏合宿前後に採血を行い、血清SH基と血清中酵素であるAST、ALT、LDH、CHE、CKの測定を行った。血清SH基の測定は我々が開発したDTNB変法およびTCEP-Gel法を用いた。合宿に当たって練習内容、練習時間には制限をせず、前回同様各チームにお任せした。

【結 果】
 前回の研究実施(2003年)時にはAチームにおいて減少していたF-SHが、差はあるものの3チームとも減少していた。前回、Aチームのみが増加し他の2チームが減少を示したOx-SHはAチーム≧Bチーム>Cチームの順で増加を示した。今回初めて測定したTCEP-SHはAチーム≦Bチーム<Cチームの順に増加を示した。血清中酵素の増減は程度の差はありものの、前回と同じ傾向を示した。

【考 察】
 前回報告した、チームレベルの差が血清SH基の変動の差として現れるというのは間違いであった。合宿における練習量等の差が、血清SH基変動の差として現れるものと考えられる。また、チームレベルの差が表れるのは運動ストレス、酸化ストレスを緩衝するOx-SH、TCEP-SHの変動に現れ、レベルの高いチームは運動ストレス、酸化ストレスをOx-SHとして緩衝し、レベルの低いチームはTCEP-SHとして緩衝することが示唆された。チームレベルの差は血清中酵素の変動の差としてとして現れることが示唆された。

ルールに対する倫理観

~ 反則についてのアンケートから ~

星野繁一(龍谷大学) 髙木應光(NPO神戸居留地研究会)

キーワード:反則、マナー、ロー、ルール、危機感

【目的】
最近ラガーマンの不祥事が目立つ。また試合中にガッツポーズをする者、レフリーに抗議する者などもいる。倫理観の劣化したラガーマンの増加が気にかかる。そこでルールに対するアンケートを実施し、倫理観などを分析してみた。

【調査方法】
先行研究は少々古いが、木幡日出男(現成徳大学教授)「ファウルついての考え方~中学生サッカー選手の調査から」(1989年サッカー医・科学研究会)をベースにアンケート票を作成した。関西学生リーグの6大学319、大阪・兵庫の中高生131、スクール・高校指導者70、総計520名からアンケートを回収し集計結果を得た。

【結果と考察】
アンケート結果を5つの分野に分け、大学生を中心に中高生や指導者の結果と対比させながら分析・考察を試みた。
(*①~⑲は質問番号、質問票は別紙)
1)プレーヤーとレフリー
②レフリーの判定について、不服とする学生が実に91.8%もいたが、③判定には一応素直に従っている、という者が79.6%・8割もいた。
2)遵法精神
⑪レフリーに見つからないように、とする学生が44.2%と驚かされる。明らさまに⑬退場やイエローカードにならない限り、と開き直る学生は8.2%と少ない。一方⑥戦術としての反則、に反対する者が63.9%と多い。即ちチームではなく個々が隠れて反則することを是としている。サッカーと比べ反則が見えにくいラグビーでは遵法精神やフェアプレー精神がなければ試合が成立たないとの理解に欠ける学生が多い。
3)スポーツマンシップ
⑭スポーツマンシップを心がけて試合する、には75.9%の学生が賛成としているが、⑮スポーツマンなら反則しないのは当然、には37.9%の賛成しかない。スポーツマンシップとは反則しないのは勿論のこと、相手やレフリーにも敬意を持って試合に臨むことである。
4)反則と勝敗
⑲反則と勝利の間で「B分らない」と迷い悩む回答は中高生で25.2%、だが大学生は42.0%と多い。とは言え⑨勝つためには反則も必要⑲反則してでも勝利を求める、という学生は⑨37.6%⑲36.7%と4割近い。これに反対する中高生⑨67.2%⑲61.1%指導者⑨88.6%⑲81.4%とは非常に大きな差がある。いかに大学生たちの間に勝利至上主義が蔓延しているかが分る。“Good looser”は死語となったのだろうか。
5)ラグビーの目的
⑰一番大切なことは勝利ではない、に反対する学生が49.5%に対し指導者は52.9%と全く逆な回答が示されている。大学生は勝利を最終目的にしていて、目的と手段(目標=勝利)が本末転倒の状況にある。あくまでも結果を求められるプロと同様、勝利至上主義に陥っているといえる。

【まとめ】
 倫理観を問うた⑥~⑲の中で大学生が「B分らない」と答えた項目が非常に多い。Bが最多数(40~47.3%)を占めたのが⑥⑮⑯⑱⑲の5項目、同様Bが30%以上の項目が6つ,計11項目もあった。即ちルールに対して迷い悩み葛藤し、倫理観が劣化している学生が多数存在する。ここに指導の余地があるのではないか。温故知新、ラグビーは英国パブリックスクールに於いてジェントルマンを育てるためのスポーツとして行われてきた。悩み多き迷える学生ラガーマンを救えるのは、ラグビー界の大人でしかない。現状のままでは、更なる勝利至上主義・商業主義・拝金主義、そして筋肉増強剤・薬物使用が、はびこるのは時間の問題であり不祥事も益々増えるであろう。

トップリーグの観客動員の変化について

高津浩彰(豊田工業高等専門学校)岡本昌也(愛知工業大学)

キーワード:トップリーグ 観客動員 人気

【はじめに】
 2011年第7回のラグビーワールドカップが開催され、開催国のニュージーランドの優勝で幕を閉じた。大会は、世界から多くの人が集まり盛大な大会となった。日本において2019年にワールドカップ開催が予定されており、ニュージーランド大会同様に、多くの人々が世界各国から試合を観戦するために来日することが予想される。一方で、日本におけるラグビー人気はニュージーランドやラグビー先進国に比べると劣るものがあり、ワールドカップを迎える国として改善しなければならないことはたくさんあると考えられる。特に、収益のことを考えると、スーパー15においては競技場での多数の観戦者があり、人気もありチケットやグッズによる収益も得ている。日本においても2003年からトップリーグが行われ、日本における最高峰のリーグとして我が国のラグビーの発展に貢献してきている。しかし、その人気については、我が国の野球やサッカーに比べ劣っているのが現状で、スーパー15に比べても人気は格段の差がある。ワールドカップ成功のためにはラグビーの人気増加が必要不可欠なことであり、その策を考えることは大切なことである。人気の1つの指標として観客動員が考えられ、観客動員の増加は人気の上昇とも考えられる。
 本研究では、日本のトップリーグの観客動員の変化について調査し、人気の変化について検討する。なお、本研究では、観客動員が多いということは人気があるという仮定のもとで調査を進めた。

【方 法】
 2003年から2011年までのトップリーグの観客動員記録をもとに観客動員数を調べ、その変化について検討した。また、メイン会場(関西、関東)、地方会場の3つに分け、観客動員の調査も行った。

【結果と考察】
 観客動員の変化について図1に示した。

図1 トップリーグ観客動員数の変化

観客総動員数は、2003年の開幕から2005年まで減少し、
その後、緩やかではあるが増加している。

各会場の観客動員の変化について図2に示した。

図2 各会場の観客動員の変化
関東のメイン会場では2003年から2005年にかけて減少し、2010年までに開幕年と同じぐらいに回復している。関西メイン会場については、2005年まで減少しほとんど回復していない。地方会場については、年々増加している。

【まとめ】
 トップリーグの観客動員の変化について調査したところ、観客動員はトップリーグ開始当初よりも増加していることが示唆された。また、地方会場における観客動員数が増加していることが明らかになった。

東海学生ラグビー連盟におけるリーグ再編の効果

-N大学のゲームスタッツ分析結果より-

寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)、岡本昌也(愛知工業大学)、高田正義(愛知学院大学)

キーワード:東海学生ラグビー連盟、リーグ再編、ゲームスタッツ

【目 的】
 東海学生ラグビー連盟では、2009年度リーグ戦よりAリーグをA1、A2のそれぞれ6チームによる2部制とし、同時にプレイオフ制を導入した。このリーグ再編の成果については、第3回、第4回のラグビー学会において、一次リーグ、二次リーグそれぞれにおけるリーグ戦順位の上位チームと下位チームの試合内容に着目し、その得失点差を分析することにより、ゲーム内容(ゲームの質)を検証した。
 その結果、A1、A2リーグともに上位チームと下位チーム間の実力差が縮まっている傾向が見られ、特にA2順位決定リーグではほとんどのゲームが僅差となっており、リーグ改編のきっかけの一つであったAリーグ残留を視野においたチーム戦略は成り立たないことが示された。
 さらにA2-Bリーグ間の入替戦でもBリーグ2位チームが勝利するなど東海学生ラグビーリーグ全体の活性化は着実に進んでいるという実感を持った。
 そこで今回は特定のチームにおける3シーズンのゲーム内容に焦点をあて、ゲーム分析の結果をもとに、あらためてリーグ再編の成果を検証することとした。

【方 法】
N大学の2009年度~2011年度まで3シーズンにおける全試合のゲーム分析を行い、セットプレーにおけるボール獲得率およびタックル数などの統計結果をもとにゲーム内容の評価を試みた。なおN大学の過去3シーズンの戦績は以下のとおりである。

◇2009年度:A2一次リーグ5位(1勝4敗)、二次リーグ(A2順位決定リーグ)4位(0勝3敗)でBリーグへ自動降格。
◇2010年度:Bリーグ1位(7勝0敗)でA2リーグへ自動昇格。
◇2011年度:A2一次リーグ1位(5勝0敗)、二次リーグ(A1-A2入替リーグ)3位でA1リーグへの昇格ならず。

【結 果】
(1) セットプレーにおけるボール獲得率
3シーズンごとのセットプレーでのボール獲得率は以下のとおりである。
スクラム : 2009年度 (89%)、2010年度 (95%)、2011年度(93%)。
ラインアウト : 2009年度 (69%)、2010年度 (88%)、2011年度(84%)

(2) タックル成功率
タックルをその成否により、5段階に分類し評価した。
LevelA : ボールを奪い返した。
LevelB : 攻撃を寸断した。
LevelC : ボールを継続された。(受身のタックル)
LevelD : タックルポイントを完全にはずした。(手負いのタックル)
Miss : タックルできなかった。
※LevelA,LevelBをタックル成功として評価

3シーズンごとのタックル成功率は以下のとおりである。
2009年度 (25%)、2010年度 (50%)、2011年度 (35%)

【まとめ】
 N大学の2009年度~2011年度まで3シーズンにおけるセットプレーでのボール獲得率とタックル成功率には同様の傾向がみられ、これはリーグ戦の対戦成績と明らかに関わりがあることがわかった。学会当日は詳細な統計データをもとにさらに検討を加えた結果を報告する。

7人制ラグビーのゲーム分析

―得点に着目して―

岡西 康法(大阪体育大学大学院)
梅林 薫(大阪体育大学)

キーワード:ラグビー,セブンス,ゲーム分析

Ⅰ.はじめに

2016年のリオデジャネイロオリンピックにおいて7人制ラグビー(以下 セブンス)が、男女ともに正式競技として採用されることが決まり、近年セブンスは日本国内で注目されるようになり、セブンスの大会が開催されるようになってきている。本研究は、男子におけるエリートチームのセブンスの試合を対象とし、ゲーム分析を行い、セブンスの特徴を明らかにし、戦術の確立や必要とされる体力要素等を検討することを目的とした。

Ⅱ.方法

IRBワールドセブンスシリーズの2009年南アフリカで行われた44試合、2010年オーストラリアで行われた44試合を対象とした。Windows Media Playerを用いてゲーム分析を行った。集計した項目は、試合のプレー時間、得点のエリアとトライのパターンである。

<試合のプレー時間>
試合時間は、Windows Media Playerのタイムカウンターを利用し、重要なプレーごとに時間を計測することとした。

<得点エリアの集計>
得点のエリア集計は、フィールドに見立てた集計用紙を作成した。トライとドロップゴールによって得点する直前のプレーがフィールドのどの地点で発生したかをプロットすることとし、自陣と敵陣の各ゾーンで生まれたトライの集計を行った。また、ペナルティーゴールを蹴った地点をプロットすることとした。統計処理は自陣と敵陣で生まれたトライ数にt検定を行い、5%水準を有意とした。

<トライパターン>
トライのパターンは、スペースを利用してランニング主体のトライとコンタクトプレーによってスペースを作りだしてのトライに分類した。4つの予選プールと4つの決勝トーナメントのトライのパターンについて集計した。統計処理は集計したトライパターンにχ2検定を行い、5%水準を有意とした。

 Ⅲ.結果と考察

<試合のプレー時間>
試合中に実際プレーが行われた時間は、前後半ともに約3分間であった。無酸素性エネルギー過程(ATP-CP系および解糖系)が主に求められていると推測される。

<得点エリアの集計>
この大会では、各チームがトライとトライ後のコンバージョンによって得点を獲得した。自陣と敵陣のトライ数を表1に示した。敵陣でチャンスをつくり、多くの得点を獲得している。206トライのうち22Mラインからゴールライン付近のエリアで98トライの起点となっていることから、そのエリア内にボールを運ぶことが得点につながる。その一方で自陣からも全体の約3割トライが生まれていることに注目する必要がある。

<トライパターン>
この大会では、ドロップゴールやペナルティーゴールを狙うプレーはみられなかった。すべての得点は、トライとトライ後のコンバージョンによるものであった。

セブンスの試合で得点するためには、ランニングスキルが得点に大きな影響を与えることが示唆される。

Ⅳ.総括

セブンスはゴールで3点を奪うよりも、トライとコンバージョンによって7点を奪うことを重視している。そのため、セブンス独自のアタックとディフェンスの戦術を考案することが必要である。戦術を効率よく実行するため、プレーヤーは、セブンスに適した専門的なトレーニングを行う必要がある。
表1

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