京都産業大学ラグビー部におけるレギュラーと非レギュラーの体力差異

淡路靖弘(京都産業大学ラグビー部) 大西健(京都産業大学教授) 溝畑潤(関西学院大学准教授)キーワード: 身体組成、筋持久力、筋パワー、心肺機能

【目的】

ラグビ-フットボール競技はそのスポーツ特有の特徴として前後半80分間常に走り続ける走力が求められると同時に、相手選手に打ち勝つ接点の強さが要求されるある種格闘技の要素が多分に含まれる激しいスポーツである。近年、日本のラグビー界においても社会人選手、大学選手の体格は増加傾向にあり、様々なトレーニングにより選手個人の体力は向上していると言える。ラグビーに必要とされる体力とは体のサイズの大きさ、筋持久力、筋パワー、心肺機能を指し、このいずれかを欠くことは勝利を得るための致命的な欠落と言える。またチーム内においてもレギュラーになる為にはそのような高度な体力が要求され体力の劣る選手はおのずとレギュラーになることは困難な事となる。
本研究は1年間を通じ、様々なトレーニングにより各選手の体力向上を図り、京都産業大学ラグビー部におけるレギュラーと非レギュラーの体力の差異を検証するものとする。

【調査方法】
関西Aリーグに所属する京都産業大学ラグビー部において部員74名を対象にし以下の項目を調査した。
1)身体組成
身体組成は4月、6月、10月の計3回にわたり各選手の年齢、身長、体重、体脂肪率、脂肪量、除脂肪体重を測定した。
2)筋持久力 3)筋パワー
筋持久力及び筋パワーは週5回朝練習としてウエイトトレーニングを実施した。
4)心肺機能
心肺機能向上のトレーニングではボールを用いてのピックアップと呼ばれる京都産業大学ラグビー部独自のランニングメニューを敢行した。トレーニング効果を確認する為に、3000m走のタイムトライアルを実施した。

【結果と考察】
1)身体組成においてFW,BKともに体格はレギュラー組の方が非レギュラー組よりも優位な数値を示している。しかしながらFWのレギュラーと非レギュラーは体重は増加傾向にあるが、BKに至っては体重は測定開始当初よりも減少傾向にある。
2)3)FW、BKともにパワーの向上はみとめられた。しかしながらBKについてはパワーの向上は微増に留まっている。
4)心肺機能の向上はFWについては大きな改善が認められた。しかしながらBKは3000m走の測定によって改善はあまり見られず、またレギュラーと非レギュラーの平均タイムの逆転現象が起こっている。

【まとめ】
FWのレギュラー選手と非レギュラー選手との体力差は調査項目の全てにおいてレギュラー選手が優位な数値を示した。一方のBKに関しては身体組成、筋持久力、筋パワーの調査項目においてレギュラー選手と非レギュラー選手との優位的差異は認められず、心肺機能の優劣差ではレギュラー選手よりも非レギュラー選手の方が数値的優位を得ている。このことから京都産業大学ラグビー部においてはBKの更なる体力向上がチームにとって必要不可欠な要素であると推測される。

女子ラグビーの現状と問題点 ~ 62人へのアンケートから ~

星野繁一(龍谷大学大学部)  髙木應光(NPO神戸居留地研究会)キーワード :オリンピック、女子7人制、高年齢、練習不足、底辺拡大

【目的】
2016年リオ五輪では、男女とも7人制が正式採用される。従って女子7人制は、今後とも普及が見込まれる。筆者らも女子ラグビーには多くの知識を持ち合わせていなかったが、これを機に女子ラグビーについてアンケート調査・考察することで現状や問題点を把握、提言できると思う。

【調査方法】
昨秋、神戸での「第13回女子ラグビー関西大会」に参加した5チーム(兵庫,京都,大阪,寝屋川,名古屋)の62名からアンケートを回収した。調査項目は以下の通りである。
1)所属クラブ 2)年齢・学校  3)身長・体重  4)ラグビーをするきっかけ  5)ポジション  6)ラグビー以前のスポーツ経験  7)練習場所・回数・専門コーチ・試合回数  8)7人制の戦術・適性  9)現状での不足なこと  10)ラグビーの魅力 11)各自の最終目標

【結果と考察】
2)の項目(以下同様)2016年のリオ五輪時がピーク期と思われる大学・専門学校・高校生らが16名・26%。一方、社会人が41名・66%で多く、そのため平均年齢が28歳と高い。至急、中学生も含め競技人口の低年齢化を進める必要がある。
4)親・兄弟など家族からの影響が25名・40%で最も多く、次いで友人・知人・先生によるものが34%。協会の刺激策によるものは7名・11%に止まる。従来からの協会活動の継続はもちろん、現在の親たちは、かつてのラグビーブーム世代で、この世代への強い働きかけが効を奏するだろう。
6)球技出身者が多く58名・62%を占める。その内訳はバスケットに代表されるゴール型の32名・34%、テニスのようなネット型(含野球型)28%。水泳・陸上・格闘技等も32%、中には体操など表現系も6名いた。他競技からの転向者も活躍可能なことを示している。だが7人制を目標とするとゴール型の出身者の方が有利だろう。
7)練習回数1回/週(以下同様)が34名・55%、2回が15名・24%、3回は12名・19%だった。1・2回合計で約8割を占め、練習不足が感じられる。試合回数では年間2~3回が23名・37%、4~5回が19名・31%。計2~5回で実に7割、試合回数の少なさが大いに問題である。練習に加え試合も不足では、強化もままならない。また中・高生の場合メンバーの少なさが試合回数の少なさの原因である。今後スクールで中・高生の女子部門を拡充する必要がある。
8)7人制の未経験者が21名・34%も存在している。各クラブともメンバー不足を嘆くが、7人制を主とすれば有利ともいえる。だが適性の問題もある。「15人制との戦術上の違いを理解」と回答者プラス「まあまあ理解者」14名・23%を含めても6割弱。戦術の充分なる理解なくしては、勝利もおぼつかない。
9)技術不足・練習時間の不足・体力スタミナの不足などの記入が目立つ。まとめると練習回数・練習時間の不足に起因する回答が、実に9割を占める。平均年齢の高さは、社会的役割の増大と関連し練習不足の原因になっているのだろう。
10)コンタクト系に魅力を見出している回答が半数。集団プレー系への回答者も約半数を占め、共にラグビーの本質に魅力を感じているようだ。
11)五輪出場を目指す人、少しでも強く・上手くなりたい人など競技力向上を目標に掲げた選手が多く38名・60%に及んでいる。一方ダイエット等、健康志向の回答も14名・22%あった。

【まとめ/課題】
 他競技からの移籍も含め女子ラグビーの人口増大。練習時間・回数の増加。そのために男子同様、既存制度での女子中・高・大生部門の確立及び大会の開催。7人制コーチの養成(資格)制度の確立、7人制の戦術理解の徹底。これらが必須であろう。

大学ラグビー選手におけるスピードを伴ったパワーの形成的評価に関する事例研究

中井俊行(大阪体育大学) 石指宏通(奈良県立医科大学) 三野耕(大阪産業大学) キーワード:ラグビー選手、事例研究、形成的評価

【はじめに】
三野らは、これまでにラグビー選手のタレント発掘について発育学的に検討し、縦断的な身長や体重を用いて中学生ラグビー選手について追跡しトップ・アスリートへと育成していく方策について検討してきた。さらに大学ラグビー選手のスピードを加味したパワーを形態学的に検討し、身長と体重とからパワーを評価することを可能にした。今回は、大学に入学してきたラグビー選手における練習やトレーニングによるスピードを伴ったパワーの形成的評価について、身長と体重とから推定したパワーとスピードと、実際のパワーとスピードを縦断的に追跡した事例を報告するものである。

【方法】
1.対象:O大学に所属し、小学校から高校まで毎年4月に測定された身長および体重が揃っていたフォワード選手2名、バックス選手2名の計4名である。大学入学後の身長、体重および50m走時間はラグビー協会登録時の測定値を用いた。
2.大学ラグビー選手のスピードを加味したパワーを評価するための簡易図: 三野らが報告した2009年度の各地域におけるトップのリーグに所属する大学選手のフォワードおよびバックスの形態学的にパワーを推定できる式をもとに身長と体重とからパワーを推定する簡易図、ならびに50m走時間と体重からパワーを求める簡易図から構成されている図を用いた。
3.パワーの目標値の設定について: 各選手の小学生からの縦断的身長発育から成熟の遅速、PB1法による最終身長の予測をした。また、体重に対する体表面積の割合を比体表面積(:s)として、縦断的な比体表面積の逆数(:1/s)から目標とする1/sを予測した。

【結果】
 事例1:プロップ選手:PB1法による最終身長の推定値は178.88cmであり、トップのプレーヤーの1/sの分布状態を参考にしてFWのトッププレーヤーの上限である5.0を目標値と判断した。その結果をもとにトレーニングが可能と推定される体重は114kg程度と予測できた。一方、高校3年時の身長は180cm、体重103kg、1/sが4.97、50m走時間が7.0秒、50m走時間と体重から求めるパワーが736kg・m/sec.であったことから、身長と体重とから推定されるパワーが
750kg・m/sec.に対して、14 kg・m/sec.低く評価された。また推定される50m走時間が6.9秒に対して、0.1秒低く評価された。
これらの評価から目標体重114kgならびに50m走時間の予測値6.9秒とすれば、パワーは850 kg・m/sec.が目標値になる。この選手の大学4年生時の体重115kg、50m走時間7.2秒、パワー799kg・m/sec.であった。高校時代よりもパワーの増大が認められたものの目標値との間に隔たりが見られた。これらのことからパワー増大のためには質量(体重)よりもスピードの増大が必要であることを示すものであった。
他の3名の事例については大会当日に発表するものとする。

【考察】
身長発育から成熟度と最終身長がわかれば、成熟度別にみた比体表面積から、これからの比体表面積が予想できる。また、予想された比体表面積をもとにラグビー・トップ・アスリートの比体表面積の目標値から、各個人の目標体重を見積もることになる。この目標体重と身長発育の縦断的変化から見積もられた最終身長とから目標とするパワーが設定され、実際の50m走時間と設定されたパワーから求められる50m走時間が設定されることになる。4名の事例について、いずれもが大学の4年間で設定された目標値に近似したパワーと走時間が得られたことは、目標開発のための条件を満たしていたものと考えることができそうである。
本研究の事例での練習やトレーニングは本人やコーチの経験則でもって実施されたもので、目標値をもとにして実施したものではなかった。このことは本人やコーチの経験則が十分に生かされたものと考えると、経験則が不足した本人やコーチのもとではこのような結果になったとはいえない。このことから、本研究の個別的な目標値を設定する方法は、経験則の不足した本人やコーチなどが利用できる可能性を示唆するもので、身長と体重とからパワーおよび50m走時間が推定できる簡易図は練習やトレーニング途上での形成的評価に利用できるものと考えられた。

白洲次郎のスポーツ観~ ラグビー ブランド化へのヒント ~

髙木應光(NPO神戸居留地研究会)、星野繁一(龍谷大学)

キーワード:サッカー、ラグビー、階級、差別化・ブランド化

【目的】
 2016年「リオ五輪7人制」や2019年「ワールドカップin 日本」の頃には、多少ともラグビー人気の回復が見込まれる。しかし、その時点でラグビーが、他のスポーツと同列であってはならない。即ち、差別化・ブランド化が進められていなければ元の木阿弥である。白洲次郎のスポーツ観をヒントに本レポートが、ラグビーの差別化・ブランド化を進めるための一助となればと思う。

【研究方法】
 白洲の出身校・神戸一中(現,神戸高校)の校友会誌、野球部史、蹴球部史、そしてケンブリッジ大学のアーカイブ、その他いわゆる「白洲本」から白洲のスポーツ歴を追跡・調査した。

【考察】
1)白洲のスポーツ歴:父・文平、叔父・長平らは
共に黎明期の野球選手として知られる。父は明治学院野球部の創設、叔父はインブリー事件や同志社野球部創設者として有名である。白洲は入学した神戸一中で、野球部及び野球委員(校内大会の係)に名を連ねているのもその影響であろう。2年次からは兄・尚蔵に倣いサッカー部員となり、やがて主将を努めるほど活躍した。1918年、全国フートボール大会(現ラグビー及びサッカー高校全国大会)が始まる。この県代表を賭けての試合では、宿敵・御影師範や関学と死闘を演じるほど熱のこもったものだった。この大会の当初15年間、連続で神戸勢が決勝へ進出している。その背景には神戸の外国人チームKR&ACの存在を見逃せない。彼らの試合を観戦し、胸を借り技術を学び、戦術を練ったからである。
国産乗用車が未だ無い時代、白洲は中学3年頃から米車(ペイジ・グレンブルック)を運転している。さらに、ケンブリッジ大学時代には「世界一早いトラック」と呼ばれたベントレー(英車)と「走る宝石・ブガッティ」(仏車)の2台を所有。
その車で世界初のサーキットコース「ブルック・ランド」を駆けた。さらに卒業記念は、親友ロビンとのスペイン・ジブラルタル往復ラリー。「オイリーボーイ」は、終生変わることがなかった。加えて、英国に於けるボートやラグビーの隆盛、その社会的地位の高さを知り感動。
帰国後には、日本水産で伊藤次郎(旧北野中,慶應,名レフリー)と共にラグビーを楽しむ。また軽井沢ゴルフ倶楽部の理事長として、クラブ本来の在り方を重視した運営に取組んだ。そのため、時の総理大臣といえども勝手な行動を許さなかったほどである。
2)サッカーとの絶縁:神戸一中時代、白洲があれほど懸命に取組んだサッカー。だが、ケンブリッジ時代以降タッチした気配は全くない。彼がケンブリッジ時代に身に着けたスポーツ・行動様式・思考方法は、上流階級のものだった。親友ロビンが伯爵の子息だったから。英国のサッカーは、庶民のスポーツで、上流階級のスポーツではなかった。英国の階級差は歴然で、靴・バッグ・傘・服装などブランド品はもちろんのこと、言葉やスポーツにまで及ぶ。ボート・ラグビー等が上流、サッカー等は庶民、と明確に分かれていたのだ。

【まとめ】
白洲には三田藩・家老だった祖父の影響が見られる。彼は、スポーツマンシップと武士道、ジェントルマンと武士、その共通性を強く感じた。そしてサッカーというスポーツが、自らの生き方に相応しくないと結論づけたのだった。
 多発する不祥事は、ラグビー界の堕落を象徴している。白洲のスポーツ観をヒントに、ラグビーの差別化・ブランド化を進めることが、ラグビー界再生への大きな一歩となる。幸いにもラグビーは、近代スポーツの元祖である。この再確認と啓発を図ることも再生への大きな力となる。

子どものサッカー・ラグビーについて

桑田 大輔(生駒少年ラグビークラブ)
相対的年齢効果、競技開始年齢、対象の把握 
【目的】
日頃、子ども達のサッカー・ラグビー育成現場を、観察し、感じた事を、データ化、アウトプットしてきた。指導者に必要な要素として「情熱」「対象の把握」「累進的なトレーニングメニューの作成」「できれば経験者である方がよい」とある。指導者であれば、誰もが多かれ少なかれ「情熱」を持っている
しかし、「対象の把握」となると、指導者は、天性の第六感か、スポーツ科学に頼るしかなくなるのだが、圧倒的に前者が多い。その為、子どもの累進的な成長に符合した、トレーニングができず、素質に応じた成長を遂げさせられない
身体的・精神的に素質のある子ども達を、育成することが、競技スポーツの強化に繋がる。その為には、累進的な成長に符合した、育成システム・大会ガイドラインの構築が、子ども達の育成年代に必要だと考えた

【方法】
各スポーツ団体・その他のトップアスリートの生まれ月を集計する。その時に、外国選手を除く・人口動態統計・日数割合も考慮した実数に近い月別出生数表を作成する。多数の月別出生数表、各年代のスポーツ競技人口の推移と競技開始年齢・ポジションと、幼児~小学6年生、約300人のアンケート調査との整合性を参照する

【結果】
Aスポーツは、4~6月生まれ(春生まれ)のトップアスリートの人数が多く、1~3月生まれ(早生まれ・冬生まれ)に、少ない相対的年齢効果がある
例えば、Aスポーツの春生まれと早生まれ(9ヶ月の月齢差・成長差)のトップアスリートの割合が、3:1とする。子ども達の成長差(表➀参照)を、約6年と考えると、春生まれの早熟児と晩熟児(72ヶ月の成長差)では、24:1となる。更に、春生まれの早熟児と早生まれの晩熟児では、上記の割合から、72:1となる(表➁参照)
トップアスリートになれる身体的・精神的な素質があるのに、月齢差や成長差によって72倍の差が発生する。これはトップ選手が600人いた場合、身体的・精神的に素質があってトップアスリートになる可能性のある選手は、20人以下ということだ
次に、Bスポーツは、小学生以下の年代から競技開始しても、中学生・高校生から始めても、トップ選手になれる。先天的な要因の割合が多いことで、構成される競技スポーツだ

(表1)

(表2)

【考察】
日本の多くの競技スポーツの育成システムによる大人の指導が、精神的に頑張れない子ども達を生み出す。多くの子ども達の素質は、ほとんど目に見えないまま、埋没している。子ども達が、素質を発揮できる、育成システム・大会ガイドラインの構築が必要だ

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