より安全なスポーツを目指して

中村周平(立命館大学大学院生) 桂充弘(弁護士)

キーワード:「スポーツ事故」「再発防止」

【目的】
毎日楕円球を追っかけ、普通の学校生活を送っていた高校2年の秋、ラグビーの練習中の事故で首の骨を骨折し、「頚髄損傷」という障害を負った。
その事故を境に、ご飯を食べる、風呂に入るなど、これまで自分一人でしていたこと、生きていく上で「当たり前」のことを誰かに頼まなくてはならない生活を余儀なくされた。
今回の発表では、事故当事者・家族の「今」を知っていただく一方で、現在ラグビーというスポーツが抱えている現状・課題から「事故後の原因究明」「再発防止策」の必要性を考えていきたいと思う。

【考察】
日本国内のラグビー事故において、過去20年間(1989~2008)で360件、年間平均20件近くもの重症事故が起きている。にもかかわらず、現在おこなわれている事故についての報告は事故直後(3日以内)、1ヶ月後までしかなく、その後の事故当事者の様子が把握されていない。また、事故直後は、これからの生活やリハビリについて多くの悩みを抱えている。しかしながら、事故当事者についての情報公開がされていないため、同じ障害を負った方との連絡が取れず、事故当事者家族が情報から孤立してしまう状況がある。さらに、事故当事者として、自身の事故に対して充分な「事故後の原因究明」とそれに基づく「再発防止策」の検討がなされていないのではないかという強い思いがある。加えて、実際に事故が起きた際の補償についても問題がある。
教育上の事故でも、スポーツ振興センターの見舞金のみ、裁判で過失が認められなければ補償されない現状がある。
ラグビーというスポーツの特性上、事故を0にすることは難しい。であるなら、事故を「悲劇」で終わらせず、二度と同じような事故を繰り返さない、次に活かすということを考えてほしい。
事故を限りなく0に近づけていく取り組みが必要であると考える。そのためには充分な「原因究明」とそれに基づく確かな「再発防止策」が必要不可欠ではないか。なぜなら、「再発防止」という観点から、芝生等の環境整備、ルールの整備の必要性や妥当性をより明らかにできるからである。また、事故が起きた後の補償を確立していくことは「スポーツ事故」におけるセーフティネットの役割を果たしてくれると考える。
しかし、司法の場にて「過失」が認められなければならない今の補償のあり方では、スポーツにおいて加害者・被害者の関係だけが浮き彫りになり、再発防止とはかけ離れた部分で議論がなされてしまう。そして、その後に大きな遺恨を残す。
加害者を作り出さない「無過失補償」、また「スポーツ安全協会」など社会資源を活用していくことも有効な手段ではないか。そして、最終的にこれらの情報を一般に公表し、「今ラグビーが抱えている現状」を「今ラグビーに打ち込んでいる指導者、そして何より選手たち」が把握できること、知ってもらうことが重要である。
彼らこそ、事故と常に隣り合わせている存在であるからだ。

【まとめ】
確かに事故は自分や家族の生活を変えてしまった、一瞬の間に起きた「悲劇」だった。ただ、私自身は今でもラグビーを愛してやまない。試合を見ていると胸に熱いものがこみ上げてくる。
そのラグビーで年間約20件もの重傷事故が起き続けている事実もまた、「悲劇」であると考える。
この発表を通して私は、「ラグビーは危ない!事故に遭うとこんな不幸になる!!」ということを伝えたいのではなく、安全推進本部の発足や安全推進講習会の義務化などをされてきた心ある多くの方々と共に、ラグビーがより安全なスポーツになっていくことを考えていきたい。

ROOKIESから学ぶこれからのスポーツ指導

-熱血教師が実践した5つの方法-

村田トオル(関西大学) 灘英世(関西大学) 溝畑寛治(関西大学)

キーワード:スポーツ指導,スポーツマンシップ,人間形成,社会性,教育効果

【はじめに】
ROOKIESは,反社会的行動を繰り返していた不良たちが野球を通じて立ち直るというドラマである。著者はこのことは行動変容理論に通じるものという仮説を立て,その視点からドラマを視聴した。また教師に対しかたくなに心を閉ざしていた生徒たちが徐々にその心を開いていく過程には,野球を通じて生徒ひとり一人への教育的配慮がなされているのではないかという思いを抱いていた。本稿では,ROOKIESからスポーツ指導について学び,今日スポーツ界が抱えている問題解決の糸口となればと考える。

【具体的な取り組み】
①生徒を心から信じた
 成果をあげるために,教師が生徒を信じぬくことをピグマリオン効果という。ドラマでは周囲から喫煙を疑われたシーンでも「吸ってない!」という生徒の言葉を一点の曇りもなく信じたばかりではなく防波堤となった。
②ほかの生徒と比べなかった
今日では「他者と比べて優劣をつける」を基準に置く評価傾向にある。このような評価基準では劣等感を抱く生徒を生みだすという可能性がある。他者と比べず,生徒の例えわずかひとつの長所であろうが認めると,有能感という感情が芽生える。ドラマでは対戦チームの監督に「生徒の名前が入ったユニフォームを手に取り,長所をきちんと話している」というシーンがあった。
③答えを生徒に託した
 指導方法の傾向として,自分の目の前の生徒を動かそうとして頭ごなしの命令形,否定形の言葉がけをしがちであるが,これではやる気を引き出すことにはつながらない。ドラマでは最後のひとりに対し「迷ってもいい,答えが出るまで待つ」という内発的動機に期待する姿勢があった。
④行動目標を明確にした
 目標とは具体的にどう行動すべきかを示す指標である。ドラマでは「甲子園出場」を掲げ,周囲の失笑を買ったが
実は,生徒のとてつもなく高い承認欲求を満足させるものであった。
⑤いっしょに取り組んだ
 教師と生徒では絶対的服従関係になりがちであるが,生徒が求める教師像とは「友好的な教師」である。ドラマではグランドの草むしりから始まり,練習では率先して走るなど生徒と目線を同じにした。

【結果】
 献身的な5つの具体的な方法によって,生徒たちは「喧嘩,喫煙をやめる」「迷惑をかけた先輩に謝る」「放課後を待ち構えていたかのように嬉々としてグランドへ走って行く」「上手くなるために練習方法を工夫する」「勝利に向かってチーム一丸となる」「川藤に対し明らかな信頼を抱く」という行動の変容がみられた。
 
【結論】
 スポーツ指導とは,選手ひとり一人の個性を引き伸ばし,それが最大限に発揮された結果として競技力向上や勝利に結びつくものであろう。一方,選手にとってはスポーツ特有の競争という要素を通じ,達成感というその時点での強い自己充実から自己の高みを目指してさらに努力を行うのである。その過程は,生きがいとも換言される「今を確かに生きている」感覚とともに,プレーを通じて健全な社会生活につながる他者理解を学んでいる。すなわち,スポーツ指導とは単にスポーツ能力遂行能力開発ではなくスポーツマンシップを通じての「人間形成」なのである。 

ラグビー語 活用の多寡 ~ 指導者へのアンケートから ~

星野繁一(龍谷大学短期大学部)  髙木應光(神戸外国人居留地研究会)

キーワード : 不祥事  ラグビー語  倫理・道徳観

【目的】
最近、スポーツマンの不祥事が多発しているが、ラグビー界でも他人事ではない。ラグビー指導に当る私たちが、学生や子供たちにどのように接しているかが問われるのは当然だろう。
一般に指導は「心・技・体」の3分野にわたるといわれるが、不祥事に関わるのは「心」の分野である。ところで私たちは、いったいどのような言葉を活用して「心」の指導しているのだろうか。
ラグビー界で重視される言葉が、果たして活用されているのだろうかを調べてみた。

【調査方法】
京都府と兵庫県のラグビー協会に所属する高校生、中学生(含ラグビースクール生)、小学校・高学年を指導する顧問教師、コーチ等に回答してもらった。アンケート内容は、ラグビーの「心」の指導で使われそうな言葉・語句84ケを列挙し、その中から複数(いくつでも可)の言葉・語句を選択してもらった。
全回答者数229、その内訳は、高校指導者69、中学指導者38、小学校・高学年指導者79。
その他、小学校・低学年指導者22、幼児指導者9、クラブ指導者12であった。

【結果と考察】
1)集計上位の言葉・語句:上位10位までの言葉・語句は、次のとおりである。
  1位:集中力:130(回答者数、以下略)、
  2位:考えろ:117、
  3位:全力:116、
  4位:あきらめるな:93、
  5位:前へ:87、
  6位:自信を持て:83、
  7位:コミュニケーション:79、
  8位:頑張れ:76、
  9位:やる気:75、
  10位:楽しんで来い:74、ラグビーはタックル:74、
上位の言葉・語句は、ラグビーに限らず他の種目でも、また一般的にも活用される言葉が大半で、やっと10位にラグビーらしい言葉が「ラグビーはタックル」が現れる。
指導中にラグビー的な言葉・語句が、活用されることが少ない。

2)低位のラグビー語:ラグビー界で高い価値を置かれていると思われる言葉・語句を以下のように12ケ定め集計した。
  正々堂々:44位12(回答者数、以下略)、
  ノーサイド:42位13、
  犠牲的精神:61位6、
  フェアープレー:24位31、
  スポーツマンシップ52位9、
  One for All , All for one.:32位17、
  For the team.:58位7 、
  リーダーシップ:44位12、
  ラグビーはタックル:10位74、
  卑怯なことをするな:30位18、
  楕円球は人生を表す:78位1、
  グッドルーザー:70位3、
であった。
「ラグビーはタックル」(10位)以外は30~32位がせいぜいで、多くが下位にある。
このように指導中におけるラグビー語の活用が少ないと言えるだろう。

3)他種目経験者との比較:A指導・経験がラグビーのみの指導者とBラグビー以外の種目にも指導および経験があるラグビー指導者、の2グループに分け、彼等が指導中どれぐらいラグビー語を使用しているかをクロス集計したが、有意な差はなかった。

  A.ラグビーのみ71 人 B.他種目も   115 人
内、ラー語活用者 8 人11.3 % 15 人   13.0 %

 (ラー語:ラグビー語の意)

【まとめ】
中間発表の段階で結論めいたことは言えないが、ラグビー語の活用が10%強ぐらいで、非常に少ないといえるだろう。
日本ラグビーの父・クラーク先生は試合後「ファインプレーをしたか?」ではなく、「フェアープレーをしたか?」を常に問うたという。
日本ラグビー界が伝統的に持つ価値ある言葉・語句をラグビーの指導中に活用することが、若きラガーマンの倫理・道徳観の向上に役立つと思うのだが・・・。
皆さんはどうお考えでしょうか。

教員免許状更新講習におけるタグラグビーの実践報告

寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)

キーワード:教員免許状更新講習・タグラグビー・アンケート調査

【目的】
平成19年6月の改正教育職員免許法の成立により、平成21年4月1日から教員免許更新制が導入された。この制度では旧免許状所持者は、修了確認期限前の2年間に、大学などが開設する30時間の免許状更新講習を受講・修了した後、免許管理者に申請して修了確認を受けることが必要とされている。名古屋経済大学では、「教科指導、生徒指導その他教育内容の充実に関する事項(選択領域として18時間以上)」の開設講座の一つとして設定した「体育」の中で「タグラグビー」を内容として取り入れた。タグラグビーは平成21年4月より実施の新学習指導要領・小学校学習指導要領解説「体育」の中で、教科として正式に採用された。今回の講座受講者のほとんどは小学校教諭、幼稚園教諭、保育士である。そこで受講者を対象にタグラグビーに対する感想・意見などを調査することにより、タグラグビー普及の一助となることを目的とした。

【方法】
受講者27名に対して講義終了時にアンケートを配布し、その場で回答をしてもらった。 アンケート回収率は100%である。なお、受講者の内訳は以下のとおりである。職業別では、小学校教諭(6名)、幼稚園教諭(3名)、保育士(16名)、元保育士(1名)、専業主婦(1名)。年齢は、54歳(17名)、44歳(1名)、34歳(9名)。男女比は男性1名、女性26名である。

【結果および考察】
設問ごとの回答結果は以下のとおりである。なおQ5、Q6の自由記述についてはその一部である。

Q1「今回のタグラグビーは、更新講習の内容として相応しかったですか?」
 「とても相応しい」(37%)、「まあまあ相応しい」(56%)と肯定的な回答が93%と大多数であった。

Q2「今回の講習で、タグラグビーというスポーツが理解できましたか?」
 「よく理解できた」(22%)、「まあまあ理解できた」(70%)と参加者の大多数がタグラグビーを理解したという回答であった。

Q3「今回の講習で、タグラグビーというスポーツは楽しい・おもしろいと感じましたか?」
 「とても楽しかった」(52%)、「まあまあ楽しかった」(44%)とほぼ参加者全員がタグラグビーを楽しいと感じてくれた。

Q4「今回の講習の担当者の指導は、適切に行われたと思いますか?」
 「とてもよかった」(85%)、「まあまあよかった」(15%)と大変好意的に受け止めていることが伺える。

Q5「タグラグビーというスポーツに対するお考えなどがあれば、お書きください。(自由記述)」

  •  ラグビーの日本でのワールドカップ開催が10年後に迫っています。少しでもラグビーを多くの市民、子どもたちに広めていくことが重要なのではないでしょうか。(54歳、男性、小学校教諭)
  • ラグビーは小学校においては今まで遠い存在のスポーツだったが、このタグラグビーは楽しくやりながらラグビーを身近なスポーツにしてくれると思う。(54歳、女性、小学校教諭)
  • 保育園の年長くらいになると、ドッジボールやサッカーなど集団ゲームを楽しめるようになるので、その一つとしてタグラグビーも取り入れてみたい。(34歳、女性、保育士)

従来低年齢の子どもたちの教材として取り上げられていないだけに受講者にとっても新鮮な印象を受けたようである。またボールを扱うことと、タグを取るという二つの動作を行うことで子どもの興味だけでなく発達を促すことから肯定的な意見が多い。

Q6「今後、あなたが関わる現場でタグラグビーを子どもたちに実施していく上で、問題点や障害となりそうなことはありませんか?(自由記述)」

  • ドッジボールやハンドベースと比べてルールが複雑なので、中学年(10歳以上の子ども)が対象となると思う。(54歳、男性、小学校教諭)
  • ルールの理解力の個人差が大きく、クラス・学年単位ではなくレベルでグループ分けをしないと取り組みにくいかと感じました。タグを取った、取らないで子ども同士のトラブルが考えられます。(34歳、女性、幼稚園教諭)

対象となる子どもが低年齢になるほど、ルールの理解が難しいという意見が多い。年齢に応じてルールをアレンジする必要がある。また新たに用具を揃えることについて予算上の問題が多く上げられた。

大学ラグビー部による地域貢献活動

-関西大学ラグビー部の実践報告-

山下 陽平 (関西大学大学院)、灘  英世 (関西大学)、溝畑 寛治 (関西大学)

キーワード:ラグビー・地域貢献・実践活動

【目的】
関西大学では、「社会と学会と大学の連携」を機軸とする実践型教育研究環境の創出を目指して研究活動を行なっている。
2001年には、関西大学体育学教室が、人体科学会・大阪府レクリエーション協会・吹田市教育委員会との共催で「社会と大学と学会の連携を求めて」というスローガンのもとに「人体科学会第11回大会」を成功させ、その内容をもとに翌年から『東西いのちの文化フォーラム』を開催し、既に第8回を経ている。この催しの中で「親子ラグビー教室」を例年開催し、「楕円のボールと遊ぼう」をテーマに子ども達に活動の輪を広げている。ここには毎年千里第三小学校の子ども達と近隣の小学生が参加している。また、千里第三小学校では週1回のクラブ活動が実施されており、同校からの要請を受けて関西大学ラグビー部員が指導にあたっている。今回はこれらの地域貢献型実践活動について事例を報告する。

【調査方法と内容】
調査方法は、平成21年6月末日、春期活動終了時に自由記述によるアンケート調査を行った。調査内容については、①ラグビーが楽しかったかどうか。②このクラブ活動を終えてラグビーが好きになったかどうか。③ラグビーを通じて友達が出来たかどうか。④秋期にも参加したいかどうか。等についてである。
春期クラブ活動実施回数10回(今回は新型インフルエンザ等により4回減)。参加者数28名。指導者6名(教員1名、地域ボランティア3名、関西大学ラグビー部員2名)。

【結果と考察】
千里第三小学校では、平成13年から高学年(4~6年生)を対象に週1回の課外教育活動としてスポーツ・文化活動を経験させている。
活動の目的は、①普段経験することのできないスポーツや文化への取り組み。②生徒間のコミュニケーションを深めさせる。③地域社会との交流を図る(この小学校ではクラブ活動の指導にあたるボランティアを地域から募って行っている)等である。
 ラグビークラブは、主に楕円球を使って遊びを中心にボールに慣れることからタグラグビーにまで発展させる練習を行っている。調査の結果①の問については、ほとんどの子どもが楽しかったと答えている。②についてもほとんどの子どもが好きになったと答えている。③では、多くの友達ができたと答えている者がほとんどであり、④では、3分の2の者が参加したいと答えており、3分の1は、他の種目も経験したいと答えている。また、子ども達は、地域ボランティアの方々に大変感謝しており、交流が深められていることが顕著に表れている。

【まとめ】
ラグビーは、人間の身体技法の中で最も多くの技法を駆使して行われる球技であることから危険を伴うため参加者が減少している傾向にある。しかし、今回の調査では、クラブ参加者のほとんどが、ラグビーに興味を示し、継続したいと思っていることがわかった。今後は、これらの子ども達をどのように継続させていくかが問題点であり、大学が担う地域貢献への取り組みの課題でもあることが窺えた。

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