ラグビー選手のメンタルサポートについて

高田正義(愛知学院大学)

キーワード:メンタルトレーニング、大会直前、チームビルディング
【目的】
メンタルトレーニングは、一般的に長期間の継続的なアプローチをしなければ、その効果はないとされている。しかしながら、国や地域を代表するような選抜チームなどは、短時間でチーム編成を強いられることがある。そのような場合には、長期的なメンタルトレーニングは不可能となることが多い。また、召集されたそのときに初めて、メンバーやスタッフに会う場合もある。代表チームを作っていくうえで、チームの哲学、方針、戦略、戦法なども限られた時間の中で行われる。
本研究は、U○○日本代表チーム(以下、日本代表)が海外遠征試合直前の合宿において、2日間のメンタルトサポートを行うことにより、どのように意識が変化したのかを検討するものである。

【手続き】
日   程:平成21年8月20日~22日
場   所:A大学
対 象 者:日本代表選手22名
プログラム:以下参照

8/20(20:00~21:00)
メンタルトレーニングの概要、自己分析、目標設定、練習日誌、フリートーク

8/21(6:15~6:45)
朝のメンタルコンディショニング
今日の目標の確認(アファーメーション)

8/21(20:00~21:00)
練習日誌、リラクゼーション、集中力、
セルフトーク、ルーティン、フリートーク

8/22(6:15~6:45)
朝のメンタルコンディショニング
今日の目標の確認(アファーメーション)

【結果と考察】
メンタルトレーニングを始める前と後では、95%の選手が考え方や練習に変化があったと答えている。
また、目標設定、リラクゼーション、プラス思考といったメンタルスキルが役に立ったと回答していた。

 
図1 役に立ったメンタルスキル

 国際試合を海外で行う直前の合宿の中で、特にチームビルディングを念頭に置いてサポート行った。日本協会が求める選手像を核とし、代表選手としての自覚、責任、信頼を強調するものとしてプログラムをデザインした。目標設定が高順位にあるのは、そのことが浸透した為であると考えられる。

【まとめ】
僅か2日間のメンタルトレーニングであったが、「ねらい」を明確にしたことにより効果的であった。練習日誌や幾つかのアンケートにより、以下のことが示唆された。

  1. 選抜選手であった為、チームビルディングが効果的であった。
  2. 個人の特徴を把握して、テーマを決めたことが効果的であった。
  3. メンタ ルトレーニングは、集中力、リラックス、やる気などに影響があった。

相対的年齢効果を解消し、強化に繋がる育成システムについて

相対的年齢効果、育成システム、大会ガイドライン

桑田 大輔(生駒少年ラグビークラブ)

【目的】
現在、日本の男子競技スポーツの多くと、学校教育に、4~6月生まれ(春生まれ)のトップアスリートの人数が多く、1~3月生まれ(早生まれ・冬生まれ)に、少ない相対的年齢効果がある。相対的年齢効果は、競技スポーツの育成・強化にとって大きな影響を与える。
例えば、Aスポーツの春生まれと早生まれ(9ヶ月の月齢差)のトップアスリートの割合が、3:1とする。子ども達の成長差を、約6年と考えると、春生まれの早熟児と晩熟児(72ヶ月の月齢差)では、24:1となる。更に、春生まれの早熟児と早生まれの晩熟児では、上記の割合から、72:1となる。
トップアスリートになれる身体的・精神的な素質があるのに、月齢差や成長差によって72倍の差が発生する。これはトップ選手が600人いた場合、身体的・精神的に素質があってトップアスリートになる可能性のある選手は、20人以下ということだ。
身体的・精神的に素質のある子ども達を、育成することが、競技スポーツの強化に繋がる。その為には、相対的年齢効果を解消するような、育成システム・大会ガイドラインの構築が、子ども達の育成年代に必要だと考えた。

【方法】
多角的に子ども達が、身体的・精神的に素質に応じて成長し、競技スポーツの強化に繋げるための方法を検証する。

○スポーツの育成について
旧東ドイツで、1964年より全児童を対象とする統一的な適性診断と選手選抜システム「旧ドイツ民主共和国における適性診断の理論と方法(1)」(綿引勝美ほか)

○教育システムについて
フィンランド教育の変化による子ども達への影響について、OECD(経済開発協力機構)のデータ

○その他
日本ラグビー学会 第1回大会『生まれ月(月齢)による精神的なスポーツ活動への影響』、第2回大会『子どものスポーツ(学校教育)と習熟度別(能力別)編成による影響』、第2回大会『子どものスポーツと育成システムによる影響について』《桑田》

【結果】
☆学校教育の習熟度別(能力別)編成について
▲ 欧米諸国の小学校では成績「上位」「中位」「下位」のどのグループでも有効性はない
▲ 小学校・中学校でも学力格差は拡大し、学校全体の学力向上にはつながらない
▲ エリート教育を行っている国の成績は、エリート教育を行ってない国の成績より下回っている
   (▲佐藤学「習熟度別指導の何が問題か」)

☆スポーツ育成の能力別(習熟度別)編成について
△ 旧ドイツでは、1964より、ドイツ統一まで継続的に、全児童を対象とする統一的な適性診断と選手選抜システムが行われた 旧ドイツ体育大学(現ライプチヒ大学スポーツ科学部)
△ もっとも優れたパフォーマンスを発揮する青少年は、青年期や成人期になっても最高の選手である、ということが期待されるが、それはたいへん稀であるということがわかった
△ 低いレベルにあると判断された子どもがそのまま、低いレベルで推移するわけでもない
△『旧ドイツ民主共和国における適性診断の理論と方法(1)より』綿引勝美ほか

☆日本の学校教育・スポーツの育成
▽ 小学校5年生男子の公立と国立の平均身長差は、0.86cm、中学校2年生では、1.20cm、国立の子ども達の方が高い。
▽文部科学省「平成20年度 全国体力・運動能力、運動習慣結果について」より
ある一定の条件を満たした子ども達を中心としてシステム化され、多くの子ども達にとって非効率なものとなっている。

☆強化に向けた育成システム
○ 高校野球連盟システム
○ バレーボールシステム(ローテーション)
○ ハーフ&ハーフシステム
○ ダイヤモンド30(釣鐘型育成システム)
○ 素質主義(地域・家庭・経済・成長差などに関係なく)
○ お山の大将システム(井の中の蛙システム)

【考察】
日本の教育・スポーツの育成は、子ども達の身体的・精神的な成長より早過ぎるために、相対的年齢効果に代表されるような現象が発生する。そのような環境のもと、日本国内でトップアスリートになったとしても、世界的な観点からの強化には繋がらない。子ども達の累進的な成長に符合した育成システムが必要だ。

東海学生ラグビー連盟における競技力向上に向けた取り組み

岡本昌也(愛知工業大学)、寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)、高田正義(愛知学院大学)
中村 司(名城大学)、篠田雅之(東海学園大学)、村瀬賢治(名古屋経済大学)
中本光彦(中京大学)、小澤良太(愛知学院大学)、青石哲也(名古屋大学大学院)

キーワード:リーグ再編、得点差、プレイオフ制

【目的】
2009年度の第46回全国大学ラグビーフットボール選手権大会は帝京大学が悲願の初優勝を飾った。また準優勝は東海大学で、この両チームによる決勝はどちらが勝利しても初優勝で大学選手権史上9校目の優勝校が誕生するという大会であった。一方、東海学生リーグ加盟校の大学選手権での戦績をみると、出場経歴を有するのは中京大学のみではあるが、1967年度の第4回大会に初出場して以来、1984年度の第21回大会までで12回の出場を果たしている。ところが、それ以降は1995年度の第32回大会、1998年度の第35回大会に出場を果たすにとどまっている。つまりこの10年来、東海学生リーグからは大学選手権に出場校を排出でていないのである。そのような現状にあって、東海学生ラグビー連盟では、リーグ全体の競技力向上を目指し、さまざまな取り組みを行っている。ここではリーグ戦の対戦方式に関わる取り組みについてその成果を検証する。

【方法】
リーグ戦順位の上位チームと下位チームの対戦に着目し、その得点差を分析することにより、ゲーム内容(ゲームの質)を検証する。

【結果】
(1) 2004年度~2008年度
東海学生ラグビーリーグでは、2004年度よりAリーグのチーム数をそれまでの8チームから10チーム編成とした。この目的はリーグ構成チームを多くすることにより試合数を増やし、戦術面および選手層両面におけるレベルアップをAリーグ全体について図ることであった。5シーズンにわたり、このリーグ戦方式を実施したところ、全国地区対抗ラグビーフットボール大会において、2005年度の第56回大会より4シーズン連続して東海学生リーグ加盟チームが優勝するという成果をあげることができた。ちなみに1950年度の第1回大会から第55回大会までに東海リーグ加盟チームの優勝回数は8回である。しかしその一方、リーグ戦上位チームと下位チームの対戦では、得点差が100点を超えるゲームが数多く出現するなど、必ずしも期待通りの結果が得られたものではなかった。

(2) 2009年度
 2009年度からは、ミスマッチを減らし、接戦のゲームをできるだけ多くすることを目的に、前年度のAリーグ上位6チームをA1リーグとし、下位4チームにBリーグの上位2チームを加えた6チームをA2リーグとするAリーグ2部制を採用した。それに加えて、チームのピークパフォーマンスをシーズン終盤に発揮できることを目的として、A1、A2リーグともに6チームによる一次リーグを実施し、その対戦結果によるプレイオフ制(各4チームによるリーグ戦)を導入した。そしてプレイオフの結果により、全国大学選手権大会および全国地区対抗大学大会への出場校の決定、A1-A2リーグ間の入れ替え、A2-Bリーグ間の入れ替えを決定することとした。その結果、一次リーグでは大きな得点差がついた対戦も多少みられたが、プレイオフでは、大多数のゲームにおいて接戦となり、また最終順位においても一次リーグとは異なる対戦結果になるなど、当初の想定範囲を超える成果がみられた。

【まとめ】

  • Aリーグのチーム数を単に増やすという方法ではリーグ全体にわたるゲームの質を向上させるにはいたらなかった。
  • Aリーグ2部制およびプレイオフ制の導入は、まだ1シーズン実施しただけなので早計に結論を出すことはできないが、ある一定の成果が認められる可能性は否定できない。なお、ゲームの得点差などの詳細なデータについては、学会大会当日資料をもとに解説する。

NZにおけるジュニア(少年)ラグビーのシステムと運営

NZワイカト・ハミルトン地区のケース

西尾建(ワイカト大学)
宮浦成敏(ワイカトラグビーユニオン)

キーワード:ジュニアラグビー、Community Rugby Plan, Grassroots Rugby

【はじめに】
ラグビーワールドカップ日本招致が決まり、日本ラグビーも長期的な視点に立った強化、普及が必要になってきている。本発表ではNZクラブにおけるジュニア(少年)ラグビーの運営および活動内容についてNZラグビー協会の戦略のフレームワークで考えていく。

【NZ協会の戦略とジュニアラグビー】
NZラグビー協会は、コミュ二ティ・ラグビーを重視し7つの柱(1.Small Black rugby 2. Teenage rugby 3.Club development 4.Rugby World Cup 5.Coaching 6. Refereeing 7.Maori rugby)からなるCommunity Rugby Plan を作成し2008年から4年間で2200万NZドル(約15億4000万円/$1NZドル=70円)を戦略的にコミュ二ティ・ラグビーへ投資する方針を打ち出している。2009年も代表強化同様Strong Community Planの中で5才から12才までのラグビー選手の増加をひとつの目標として設定している。

【ワイカトのジュニア・ラグビーの活動と運営】
ワイカト・ハミルトン地区においての13才以下のラグビーに関しては、20のクラブからなるWaikato Central Junior Rugbyという委員会が運営。活動は1年ごとで、2月から3月にコミュ二ティ誌や学校で告知があり3月に体重測定と登録。活動はアンダー6(U6)から1年刻みでアンダー13(U13)まで。シーズンは、7月の冬休み2週間を除く5月上旬から8月下旬までで、平日に練習(週1回)、土曜日に試合(13試合)というサイクルで行われる。U6からU13の試合は午前中に行われる。ルーティン以外の行事としては、シーズン中にトーナメント戦およびエア・ニュージーランドカップ開幕戦での行進と試合観戦。U12,13に関しては上記の活動以外に選抜チームでのリーグ戦が行われるが、基本的にはクラブ単位の活動である。

【Development Plan とジュニアのコーチング】
コーチング、試合実施に関するガイドラインは、NZラグビー協会のDevelopment Planに基づいて作成され運用されている。U13までを、
1.Beginning Rugby (U6-7)
2.Learning rugby (U8-10)
3.Playing rugby (U11-13)
の3つのカテゴリーに分け、各カテゴリーは、年令別にさらに細かく分けられ指導、試合に関するガイドラインが作成されている。

【まとめ】
ジュニア・ラグビーがNZラグビー協会の戦略に沿って効率的に運営されている。特にDevelopment Planは、一貫した強化システムの基礎となるもので、各クラブが運用しやすいものとなっている。コーチは子供とのコミュニケーションを大切にし『ゲームを楽しむ、ラグビーを楽しむ』ということが主眼に行われている。活動はシーズン制(4ヶ月)で短時間(週2回/練習日1時間、試合日90分)であり、多くの子供がラグビーだけではなく他のスポーツも楽しんでいる。またスタジアム行進や試合観戦などトップ選手と触れ合う機会もあり子供の夢を育むという配慮もされている。

NZユース世代の強化ストラテジー

NZワイカト・ラグビーユニオンのケース

宮浦成敏(ワイカトラグビーユニオン) 
西尾 建 (ワイカト大学)

キーワード:強化育成システム、評価基準、スカウティング

【目的】
昨年日本で開催されたU20世界ラグビー選手権では、参加国のユース世代のレベル高さが証明され、ユース強化の重要性を再認識させられた。本発表においては、世界トップレベルのNZラグビー選手育成システムの現状を紹介し、今後の日本ラグビーのユース育成で生かせる要素、アイデアを探る。発表では、日本ラグビー強化育成プロジェクト(ATQプロジェクト)で実績があるワイカトラグビーユニオンでの16才から18才の強化育成システムとプログラムの事例を紹介する。

【選手強化育成の概要とプロセス】
アカデミーの選手たちは、14才から18才(ユース世代)の時期に競技力の向上とともにプロラグビー選手としての将来の選手像を意識し、自己管理や自己責任など社会的な規範も身につけて成長していく。NZのユース世代の強化においては、早期に選手の能力を見極め、その後各年代ごとに段階的に選手の能力を向上させていく強化育成プログラムが確立されている。ただアカデミー選手選抜に関しては単年評価であり、同年代との厳しい競争の中でお互い意識しながらプロ選手を目指している。

本発表においては、ワイカト・ラグビーユニオンにおけるユース世代強化ストラテジーにおける、

  1. スカウティング、エリート強化・育成、選手評価、プロフェッショナルへの指導のプロセス
  2. 年代別の指導カテゴリー、そして選手とともに進捗度を確認し、成長過程のフィードバック
  3. 選手として意欲的な活動の実現を目指していくための目標設定

について、実際にアカデミーで使用されている例も交えて紹介、考察する。

【まとめ】
アカデミーでは、強化育成プログラムにもとづいて一貫した指導が行われている。指導の中で最も重視しているのは、選手とコーチ(指導者)のコミュニケーションである。各選手の技量の評価とフィードバックを通して、選手はきめの細かい目標設定を行い実行していく。またユース世代という人間的な成長段階でラグビーの技術だけでなく地域性、文化を理解し、これまで積み重ねてきた長いチームの歴史と対する理解も重視している。

« »