夏季合宿での集中運動負荷が血清SH基に及ぼす影響

夏季合宿での集中運動負荷が血清SH基に及ぼす影響

中上 寧(藤田保健衛生大学)、高津浩彰(国立豊田工業高等専門学校)
岡本昌也(愛知工業大学)、寺田泰人(名古屋経済大学)
丸田一皓(藤田保健衛生大学)

キーワード: F-SH、B-SH、T-SH、運動負荷

【目的】
 血清アルブミンは34番目のSH基がいかなる物質とも結合していない還元型アルブミン(HMA)と、SH基が何らかの物質と結合している酸化型アルブミン(HNA)に分類される。激しい運動によりHMAが減少しHNAが増加するという報告があり、血清アルブミンが運動ストレスの緩衝に働いていることが分かってきた。しかしながらHMA、HNAの測定はHPLCやLC-MSに限られるため、正確ではあっても処理能力、簡便性に欠点がある。そこで我々はSH基に特異的に反応するDTNBを利用したチオ・コリン法に改良を加え、種々の状態のSH基を直接測定する方法を開発し、血清中のSH基が何物とも結合していないfree-SH(F-SH)、何物かと結合しているbinding-SH(B-SH)、それらの和であるtotal-SH(T-SH)を測定しうることを可能とした。さらにこの方法を用いて病態生理への応用として、各種疾病におけるSH基の変動を、運動生理への応用として有酸素運動および無酸素運動でのSH基の変動を測定し、有酸素運動によりF-SHが増加することを見出した。今回、夏合宿における集中運動負荷が、F-SH、B-SHおよびT-SHに与える影響を測定した。

【方法】
 レベルの異なるA大学(19.52±1.30才、n=21)、B大学(18.85±0.77才、n=13)、C大学(20.77±2.04才、n=13)のラグビーチームに長野県菅平高原での夏合宿を利用して運動負荷を与えた。合宿の日数や運動負荷の規定は行わなかった。合宿前後に採血を行い、乳酸は採血時にアークレイ社のラクテート・プロを用いて測定し、さらに得られた血清を用いてF-SH、B-SH、T-SHを測定した。また、同時期の愛知県協会レフリーソサエティの合宿研修会に参加したレフリー(39.55±7.06才、n=11)にも同様の実験を行った。

【結果】
 学生群(A大学、B大学、C大学)とレフリー群において、T-SHに占めるF-SHの割合に差が認められた。A大学では、合宿前のF-SHが平均81.41%(同年代の平均:73.16%)と高い値を示した。合宿後は79.46%と低下はしたが、正常値に比べると高い値を示した。B大学では合宿前の73.15%から合宿後80.02%へ、C大学では合宿前の71.23%から合宿後は73.75%へと全て上昇を示した。レフリー群のF-SHは46.33%と、学生群の正常値と比べるとはるかに低い値を示した。乳酸は、学生群で合宿後に減少傾向を認めたが、レフリー群では増加傾向が認められた。

【考察】
 レフリー群と学生群のF-SHに差が認められたのは、加齢に伴うF-SHの減少によると思われる。我々は過去に有酸素運動がF-SHを増加させることを確認したが、A大学で合宿前のF-SHが82.85%と極めて高い値を示したのは、合宿前の練習において、強度の有酸素運動を行ったことによることを示唆している。また、合宿中にF-SHが低下したのは、無酸素運動系のトレーニング、試合が多かったことを示唆している。B大学、C大学において合宿中にF-SHが増加したのは有酸素運動系のトレーニング、試合が多かったことを示唆している。

ラグビー部員に対する頚椎画像メディカルチェックによる重傷事故予防

ラグビー部員に対する頚椎画像メディカルチェックによる重傷事故予防

中村夫左央、生野弘道、松岡好美、松浦正典、小西定彦、中村博亮
・橘陵ラガークラブ(大阪市大医学部ラグビー部OB会)
・弘道会阿倍野クリニック

キーワード:頚椎損傷、MRI検査、安全対策

【目的】
 頚椎頚髄損傷は、ラグビーにおいて頭部急性硬膜下血腫とともに予防するべき重傷事故である。日本協会では2007年より重傷事故対策本部を設け、RUGBY READYを基本として、コーチ・選手・レフリーの危険なプレーに対する意識を高めることにより、重傷事故防止に力をいれている。一方で選手に対する頚椎・頚髄のメディカルチェックを選手ごとに行い、事故を予見して未然に防ぐということも重傷事故予防対策として大切であろう。当クラブでこれまでに行ってきた頚椎の画像スクリーニングを用いたメディカルチェックを紹介したい。

【方法】
 大阪市立大学医学部ラグビー部では、2003年より部員に対して、OB医師の協力により、単純X線検査とMRI検査による頚椎スクリーニングを行ってきた。特に新入部員は必須とした。画像的なスクリーニングにより、頚部脊柱管狭窄や先天異常などがあれば、軽微な衝撃によってでも頚椎頚髄損傷をきたす可能性があると予見されるため、激しいコンタクトプレイは避けて予防するよう選手に進言・警告することとした。頚椎椎間板ヘルニアや変形性頚椎症などが考えられる時も、連携した専門医を受診してもらった。

【結果】
 これまで2003年から2008年まで6年間でのべ95名の学生選手のチェックをおこなった。2008年からは新入生と卒業生に限定した。頚部脊柱管狭窄症や先天異常に該当する部員はいなかった。頚部痛や上肢痛などの症状を訴えて頚椎椎間板ヘルニアなどの疾患が疑われた選手は新たにX線とMRI検査を行い、以前のデータと比較することで診断の参考になった。選手期間終了後の学生1名が頚椎椎間板ヘルニアで手術したが、その際にも過去のデータが役立った。

【考察】
 選手のメディカルチェックは、体力やスキル上達を確認する以外に、事故を予防するためにも行われるべきものである。メディカルチェックのなかに、X線/MRI検査を取り入れて、頚椎・頚髄の先天的な易損性がわかれば、重傷事故を未然に防げる可能性が増すはずである。また将来に頚椎椎間板ヘルニアなどの変性疾患が疑われた際にも比較できる。このような観点から、当クラブでは今後もこのスクリーニング検査を継続していきたいと考えているが、実施に際しての問題点として

  1. MRI施設のある病院の確保が必要で、かつ高価な検査であること、一般の高校大学選手に対しては、父兄、OB会、有志、後援団体などの金銭的バックアップが必要であること
  2. 未成年者の場合には父兄の許可も必要であると考えられる場合があること
  3. 実際に危険性のある選手が見つかった際に、コンタクトプレイをやめるような指導や警告をしても、拘束力をもつかどうかは難しいこと

などがあげられる。
しかしながらラグビーの重傷事故防止対策として、このようなMRI画像を含めたメディカルチェックが他のコリジョンスポーツに先駆けて広まることを期待し推奨する。

ラグビーを手段として、地域に活力を!

ラグビーを手段として、地域に活力を!

財田 幸治(兵庫県立神戸甲北高等学校)

キーワード:協力者、一体感、教育力、憧れ、つながる

【はじめに】
 6年前高校生の人間形成を目的として、地域のラグビースクールと定期的に交流を始めた。生徒たちは、子どもたちや大人と交流することにより、気配りやリーダーシップなどを身につけていった。交流2年目は、末永く続くように定期交流の基礎固めに力を注いだ。そして交流3年目、有志が集まり神戸北区のスポーツ振興、地域のコミュニティー、ラグビー普及を願う「北区ラグビーフェスティバル」が開催されることになった。

【方 法】
 (*学校現場から発信し、地元の行政を動かし、地域の有志を融合させ、スポンサーを募って自主的な運営。)
・北区ラグビーフェスティバル実行委員会を結成。
・企業などの協賛を募り、イベントに参加依頼。
・イベント内容をラグビー関係だけでなく、子どもから年配者、一般客も楽しめる内容に。
・行政の全面協力。
・地域の店や駅にポスターの掲示協力依頼。
・メインは高校生の試合。

【結果と考察】
 第1・2回は、神戸甲北高校で行い、実績を積み上げた。その実績が認められ、第3回からは北区区役所からの全面的な協力を得て、場所(神戸市立森林植物園)の提供、備品の貸し出し、保育所や病院の手配など、安心して運営できる環境を提供していただいている。第4回では、神戸市の姉妹都市であるオーストラリアのブリスベン市長と議員、神戸市副市長にもイベントに参加していただけた。来場者数第1・2回約500人、第3回1000人(神戸私立森林植物園発表)、第4回1279人(神戸市立森林植物園発表)
 大人から子供達が同じ場所でラグビーをすることで知り合った地域のさまざまな年齢層から、挨拶をしてもらったとか、見掛けたという報告を受けるまでになった。隣人とでさえ挨拶の少ないと言われる昨今、声をかけ合い犯罪の少ない地域となる礎になりそうな手応えもある。行事を通し、One for All、 All for Oneを感じた子供達がリーダーシップを持った大人に育ってくれることを期待できるまでになったと言えるのではないか。

【まとめ】
 多くの協力者のお陰で、7月の最終日曜日は、「北区ラグビーフェスティバル」の日と定着してきた。また、「北区ラグビーフェスティバル」実行委員会以外のラグビー愛好家の方々にも、会場設営や模擬店、試合運営など協力いただき一体感を持って運営している。高校生も、運営やスポーツ体験ゾーン、メインの試合を行い、スクールの子どもたちのあこがれの存在になっている。(昨年よりスクール経験者が本校に入学してくるようになった。)
 今後は、ラグビー未経験者の子どもたちの集客を増やし、ラグビーに出会う機会を作りたい。そのためにも、現在、他種目としてダンスとラクロスに参加していただいているが、他の多数のスポーツ団体にも参加、協力いただき、「北区スポーツフェスティバル」にまで発展させたい。また、「北区に芝生のグランドを」を合い言葉に、芝生グランド実現のため地道に活動を続けていきたい。

おとなのラグビースクール その効果

おとなのラグビースクール その効果

鈴木 道男(どんぐりラグビークラブ)

キーワード:生涯スポーツ、健康、普及、交流、スポーツマネジメント

【緒言】
 一般的にラグビーを始めるきっかけとして、学校体育授業、クラブ活動、子供たちのラグビースクールなどがあるが、その機会を逃した社会人は「ラグビー」に接する機会が少なく、初心者向けラグビー情報の窓口は見つけにくい。 また壮年向けのラグビークラブも、ほとんどが経験者向けのコンテストラグビーを行っているので、プレーを継続するのは困難である。1996年「どんぐりラグビークラブ」が発足、40歳以上のシニアエンジョイラグビークラブとして活動してきた。 10年以上の普及活動を通じての経験から、さらに充実発展を図り、2007年4月より新しく「おとなのラグビースクール」がスタートした。 これは生涯スポーツとしてのラグビー普及とあわせて、健康増進と生きがいの提供を明確に目指して、高齢化時代のニーズに沿うプログラムである。

【目的】
 「おとなのラグビースクール」は、生涯スポーツのひとつとして成人を対象としたラグビーの普及、プレーを楽しむ機会提供を行う。 あわせて参加者の健康増進、生きがいの提供、生涯にわたっての健康時間の確保による医療費節減、また社会人、壮年世代のラグビーファン層の拡大、その家族、友人、子供たちのラグビー参加機会の増大などを目的とする。 ラグビーの楽しさや感動を、一般社会人、シニア世代、すべての初心者に届ける。 

【方法】 
 口コミ、ポスター、インターネットなどの広報媒体で参加者を募集し、毎月1~2回、安全に配慮した芝生グランドを中心に活動し、ラグビーの基本から学び楽しむ活動をする。

  • ストレッチ・ウォーミングアップ 加齢による筋肉老化防止、メンテナンス、個人差のある体力、筋力に配慮して十分な時間をかけて準備運動を行う。
  • グリッド・個人的基本練習 ラグビーのプレーに必要なハンドリング、基本的動作について、その目的、コツなど説明しながら反復練習し、参加者の身体に馴染むようにしっかり習得する。
  • コンタクト基本練習 ラグビーの特徴であるコンタクトプレーの理論と基本を学ぶ。
    安全の根幹を成すものなので入念に練習する。
  • グループ練習 ラグビーのゲームで必要なポジションの連携基本練習を行い、ボールキャリアーを頂点とする動き方など、自然な動作が出来るようにする。
  • タッチフットボール コンタクトプレーがないゲーム形式で、敵味方の位置関係の把握、パス連携などそれぞれのペースで楽しむ。
  • マッチ 実際のラグビーゲームに準じたミニゲームを行い、各ポジションの特性、ルールの把握をして、ラグビーの楽しさを味わう。
  • クールダウン 練習後の整理運動、後日に疲れを残さないようにクールダウンを行いながら、その日の練習内容について質疑応答を行い、理解を深める。
  • その他 ルールやゲームの楽しみ、ラグビーの歴史、現状など、一般知識、マナー、ラグビーの品格など、教養としても楽しく講習する。

【結果と考察】
 20才代の初心者から60歳代の参加者を得る。それぞれの参加動機としては、成人病予防、スポーツとしての楽しみなど、要望を満たす。またグランドでの交流により精神的な充実感を得て、生きたラグビーの情報交換ができる。
課題
〈1〉芝生グランドの確保 グランドを所持する企業、団体などと密接な関係構築、インフラの整備、特に「グリーンスポーツ鳥取」の取り組みのように、グランドを芝生化していく。
 http://www.greensportstottori.org/lawn/
〈2〉運営スタッフ養成、モチベーションの高い指導力のあるコーチの確保 快適な環境づくりが必要である。
〈3〉運営組織の確立、スポーツマネジメントの充実など。

【まとめ】
生涯スポーツとしての「おとなのラグビースクール」は、ラグビー参加機会の多様化に貢献し、「健康増進と生きがいの提供」、ラグビーの普及、発展、活性化に大きく寄与できる。

子どものスポーツと育成システムによる影響について

子どものスポーツと育成システムによる影響について

桑田 大輔(生駒少年ラグビークラブ)

キーワード:競技開始年齢、動機付け、ムーンスパイラル

【目的】
 ラグビートップリーグ日本出生選手、545人 『競技開始年齢が 小学生以下から 200人 中学生から 135人 高校生以降 210人』(日本ラグビーフットボール協会08HP、08ラグビーマガジン10月号別冊より) 競技スポーツ選手の生まれ月(月齢)データを集めて研究する中で、競技開始年齢にも着目してきた。トップアスリートの生まれ月・競技開始年齢をデータ化し、研究する事で、子ども達がスポーツで身体的・精神的に累進的な素質に応じた成長を促進するような育成システムを、構築できるのではないかと考えた。

【方法】
 各スポーツ競技団体のトップアスリートの生まれ月・競技開始年齢を集計する。その時に、外国選手を除く・人口動態統計・日数割合も考慮した実数(デモグラフィック変数)に近い月別出生数表を作成する。多数の月別出生数表・競技開始年齢と、各年代のスポーツ競技人口の推移を調べる。ラグビーに関しては、トップリーグの月別出生数表・競技開始年齢・ポジション別競技開始年齢などの表を作成、調査する。

【結果】
 全体的にトップアスリート(発達促進者)は4~6月生まれの人数が多い(ムーンスパイラル)。従来「月齢能力差が精神的な差異に繋がる」と考えられてきた。子ども達は、月齢能力差を日常的に幼少の時期よりいろいろな場面で感じてきただろう(走っても、飛んでも、投げても、大きな差異がある)。その結果、各競技団体のトップアスリートは、必ず4~6月生まれが多くなるはずだ。
しかし、ラグビートップリーグ選手の月別出生数表は生まれ月(月齢)による影響が、ほとんどなく、どの年代でも(小学生期・中学生期・高校生期)平均している。上記の考えと符合しない。
だが、ラグビートップリーグ選手のポジション別競技開始年齢表には大きな差異がある。
(考察)
友達・子ども同士間の月齢能力差による、勝敗からくる精神的ストレス(有能感・劣等感)は小さく、コーピングで、ほとんど解決する。各競技スポーツの月別出生数表は、子ども達の処理能力を超える大きなストレスが、ムーンスパイラルの発生要因だと示している。
日本の学校教育制度の中で同じ学年の友達・仲間同士は、コミュニティーを形成しており、学年の意識は非常に強く、生涯続く。月齢能力差と学年が、考慮されない枠組みを取り入れた育成システムは、精神的にも未発達なこの時期に、大きなストレスとなる。
子ども達の月齢能力差(早熟・晩熟)による処理能力を超える大きなストレスによる影響(ムーンスパイラル)・非常に強い学年の意識を無視した場合のストレス以外にも、身体的・精神的に発育・発達に合わない育成システムによるストレスなどがある。

08トップリーグ日本出生選手 545人 ポジションのべ 688人

ポジション\競技開始学年

小学以下

中学

高校以上

合計

PR HO LO

35

52

137

224

FL NO8

47

24

62

133

SH SO CTB WTB FB

176

91

64

331

 

258

167

263

688

 

 

 

 

 

ポジション\競技開始学年

小学以下

中学

高校以上

 

全ポジション

37.5%

24.3%

38.2%

 

PR HO LO

15.6%

23.2%

61.2%

 

FL NO8

35.3%

18.1%

46.6%

 

SH SO CTB WTB FB

53.2%

27.5%

19.3%

 

日本ラグビーフットボール協会HP(2008116日現在)

 

競技開始年齢08ラグビーマガジン10月号別冊より

 

 

【結論】
 日本の各スポーツ人口推移は、小学生から中学生になる段階で、ほとんど増加する(中学生の男子入部率約75%)
小学生期に楽しい思いを胸に中学生に進級した後も、友達なども引き連れ、入部するのだろう。
しかし、ラグビーの場合、平成19年度では、スクールの競技人口が、27,367人 中学生の競技人口は、8,750人だ。あきらかに他スポーツとの差異があり、普及・育成・強化の観点からも大きな問題だ。子ども達の精神的・身体的な発達・発育に合わせた育成システムの構築が必要だ。

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