生涯スポーツとしてのラグビー

生涯スポーツとしてのラグビー

鈴木道男(どんぐりラグビークラブ)

キーワード:健康、いきがい、シニア、生涯スポーツ

○目的
社会の少子高齢化で増加の壮年・高齢世代(40歳以上)を対象としたラグビーの普及です。
あわせて壮年、高齢者(シニア層)年代の健康増進と生きがいの提供、また生涯の健康時間確保、増大による医療費節減を目的としています。壮年層のラグビー取り込みにより、ラグビーファン層の拡大、家族、友人、子供たちのラグビー参加機会の増大などを目的として活動しています。

○方法
・40歳以上の壮年層対象としたシニアエンジョイラグビー実施、イベント開催(交流大会など)
・遠征、来征チームの受け入れなど、ラグビーゲームを通じて各地のラガーと交流
・安全に配慮した芝生グランドを使用
・壮年主体のクラブチーム(どんぐりラグビークラブ)を発足して、壮年対象のラグビー機会提供

○結果と考察
・実施・運営母体⇒1996年12月大阪府ラグビー協会クラブ登録(どんぐりラグビークラブ)
・参加者⇒1996~2006年に約400試合、のべ約9000名のメンバー参加を得る
・運営⇒参加費システムの導入による合理的クラブ会計
・エンジョイラグビーの確立⇒ゲームコンセプト、レフリングなど、ノウハウ提案
・グランドの確保⇒環境、立地のいい芝生グランドの確保、女性、子供、環境に優しい設備
花園ラグビー場、東大阪多目的グランド、長居第二陸上競技場、
鶴見緑地球技場、舞洲球技場、大阪体育大学ラグビー場、神戸製鋼灘浜、ほか

○遠征交流 
【国内】
東京都、長野県、石川県、富山県、福井県、岐阜県、三重県、滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、徳島県、香川県、高知県
【海外】
中国(香港)、台湾、タイ
 
○今後の課題
【1】モラルの維持⇒コンプライアンス、マナー向上は発展の要(基本理念)
【2】運営専任のスタッフ養成⇒スポーツマネジメントの充実(人材育成)
【3】コンセプトの確立と運営⇒安全と楽しみの両立(エンジョイ)

○まとめ   
生涯スポーツとしてのラグビーは、「健康増進と生きがいの提供」、大きな社会貢献ができます。また生涯スポーツとして、これからも適切な運営・対応をすることができれば、健康増進とあわせて、ラグビーの発展・活性化に大きく寄与できるものです。

○どんぐりラグビークラブ
2004年 日本初の「禁煙宣言」クラブです。(グランド、懇親会などすべて禁煙実施しています。)
2007年 より安全に、初心者層の取り込みも図りながらラグビー競技者、ファン層の拡大を目指した「おとなのラグビースクール」を発足しました。
これからも活動を通して、高齢化社会に貢献できるラグヒーの提案、普及を行います。

幼児の体力づくりへの取り組みについて

幼児の体力づくりへの取り組みについて
~ラグビー遊びをとおして~

村田トオル(帝塚山大学)
池上勝義(有限会社トップコーポレーション)
灘英世(関西大学)
溝畑寛治(関西大学)

キーワード:子ども、体力、取り組み、ラグビー遊び

○はじめに
子どもの体力低下については、1985年ごろより始まり、近年では「運動する子」「運動しない子」の”二極化現象”が大きな社会的問題となっている。子どもの体力低下問題はもはや運動能力という狭い視点だけでなく、生活習慣全般に及ぼすものである。本稿では、いち早く子ども達の発育発達に積極的な取り組みを実施している保育園を例にあげつつ、幼児向けに簡素化したラグビーをとおして、幼児の体力づくりについて考えてみたい。

○取り組み
 ラグビーは、身体接触が許されているスポーツである。そのために生じるプレー事象は様々であり、あらゆる身体技法により対応しなければならない。さらに、”紳士のスポーツ”と呼ばれるように、いかに身体接触が許されていても、危険な行為に対しては、その種類により反則が課せられる。また”ノーサイドの精神”とも表現されるように、ひとたび試合終了となれば、握手をし、お互いの健闘を讃えあう。このようにラグビーは、人格教育的な側面も備えているスポーツである。
有限会社トップコーポレーションでは、「子どもの強いからだと心を育て、さらにチームでプレーすることにより団結力を養う」というねらいで、体育指導の業務委託を受けている私立保育園において「ラグビー遊び」という名称で指導計画に取り入れている。また、「ラグビー遊び」を取り入れている複数の保育園に呼びかけ、「保育園同士の交流や日ごろの成果発表のため」をねらいとした「保育園親善ラグビー大会」を1995年より毎年1回開催している。さらに、「ラグビー遊び」導入における体力面を確認するために独自の測定法により体力テストを実施した。

○結果および考察
(1)「ラグビー遊び」導入による園児の行動変容
 保育士の観察によると、当初は、見ているだけの園児が練習に参加したり、何事にも消極的な園児が進んで取り組むようになったり、さらに礼儀正しくなり、友達を思いやるなど明らかにクラスが一体化したという実感を持ったという。
(2)「ラグビー遊び」導入による園児の体力における変化
一般に体力は向上する傾向にあった。しかしながら、ラグビー遊びによるものか、自然な発育発達によるものかまでは言及できなかった。だが保育士の観察によれば、「何度でもくりかえしたり」「動きを工夫したり」という自発的な行動がみられたところから推察すると、これらの行動はトレーニングの5原則である「反復性」および「漸進性」の原則を満たしているともいえよう。さらに基本運動動作の要素が入っていることによる「全面性」の原則も満たしているといえよう。したがって、さらに継続的な実施により向上は十分期待できるものと考えられる。

○まとめ
園における子どもの様子から、「ラグビー遊び」を取り入れてからは、明らかに意欲や対人関係に対しては好影響をおよぼしたといえよう。体力についても、直接的な関与はなかったものの、運動への意欲喚起をおよぼす間接的な影響があったものと推察される。したがって、身体接触というラグビー特有の動きを簡素化し、子どもが興味をひくよう工夫したルールによる「ラグビー遊び」は、幼児期における取り組みとしては、有効であると示唆される。

日本聴覚障害者ラグビー連盟(デフラグビー)の活動について

日本聴覚障害者ラグビー連盟(デフラグビー)の活動について

千葉英史(追手門学院大学・日本聴覚障害者ラグビー連盟)
落合孝幸(日本聴覚障害者ラグビー連盟)
長田耕治(日本聴覚障害者ラグビー連盟)
坂崎孝浩(日本聴覚障害者ラグビー連盟)

キーワード:デフラグビー、聴覚障害者、活動、コミュニケーション

○はじめに
日本におけるデフラグビーの取り組みは、1994年12月に「日本聴覚障害者ラグビーを考える会」として発足されて10余年となる。1997年10月に日本聴覚障害者ラグビークラブ(以下、JDRC)と改名され本格的に普及・育成活動が活発的に開始された。2004年5月に行われた10周年記念式典を機にJDRCから日本聴覚障害者ラグビー連盟(以下、JDRU)に変更した。
本研究では、このJDRUの10余年の歩みを追いかけ、活動実態を調査し、今後の普及・育成・強化活動の一助となることを期することを目的とした。

○日本におけるデフラグビーの活動
(1)活動目的・内容
聴覚障害者及びその関係者がラグビー競技に親しみ、競技力向上と同競技の振興と普及を図り、同時に聴覚障害者及びその関係者における生活の質の向上に寄与することを目標とする。
(2)活動内容
JDRUは普及・育成・強化活動を行うため執行委員会・事務局を設けている。
(3)国際交流
2002年8月10日~24日に、「第1回聴覚障害者(デフ)ラグビー世界選手権」がニュージーランドにて行われ、デフ日本代表チームも参加し7人制大会に臨んだ。
2005年8月 には、単独クラブチームとして英国遠征が行われ、イングランド・ウェールズ・スコットランドの各デフ代表と対戦した。

○デフラグビーへの参加とコミュニケーション
(1)聴覚障害者のデフラグビーへの参加基準
デフラグビーの世界大会の参加資格が、両耳平均聴力レベル25dB以上(2002年大会基準)という、軽度の聴覚障害者の参加を認めており、その聴力レベルから一緒にラグビーが出来るのである。
(2)コミュニケーションの方法について
デフラグビープレーヤーも聴覚障害レベルで様々な選手が集まっている。また、指導者やサポーターとして参加している人には健聴者もおり、その健聴者の中にも手話が使える人と使えない人と存在している。このような背景からチーム内でのコミュニケーションの方法が複雑になっている。

○おわりに
第1回世界大会の参加が決定され、世界大会の参加基準が明確となった。日本ラグビーフットボール協会が協賛する世界大会出場の選手選考を兼ねた強化合宿では、高校、大学でのラグビー経験者が集まり、指導者には日本協会から派遣された健聴者が参加した。しかし、発足当時から携わっていた聾者と、参加基準に満たしている難聴者とでコミュニケーションの方法で幾つかの問題が生じた。同様に、選手と指導者間でも練習方法や戦術・戦法の伝達などで説明に時間が掛かりすぎて練習時間が長くなったり、意図としている内容が伝わらず、チーム作りに難色があった。
 そこで、健聴者・難聴者は手話を覚える努力をしたり、手話の通訳者や口話を読み取れる者が聾者に手話で伝達したりと諦めないコミュニケーションを目指した。また、指導者側はグラウンド内にホワイトボードを持ち込んで、文字や図を使うことによってより効率よく、効果的に意図を理解出来るよう工夫をした。
また、室内でのミーティングでは、資料・PCでのパワーポイントなど視覚からのプレゼンテーションを含め、手話を中心にコミュニケーションを取る環境づくりに努め、最終的に両者が歩みより、コミュニケーションを成立させていったのである。
会話でコミュニケーションが取れる人も手話を覚えたり、手話しかできない人も積極的に交流したり、言葉が出せる人はできるだけ手話に言葉を添えるなどして、相互に理解しあえる環境を作り上げた。
現在、第2回世界大会の準備を国際聴覚障害者ラグビー機構(I.D.R.O)が検討しており、JDRUは、日本デフラグビーが世界での対戦に通じるよう競技力の向上を目指し、若手育成など、より一層の発展に努めている。

ラグビーにおけるスクラム力の実践的測定方法について

ラグビーにおけるスクラム力の実践的測定方法について青石哲也(愛知学院大学)
菅野昌明(愛知学院大学ラグビー部)
岡本昌也(愛知工業大学)

キーワード:スクラム力、スクラムスピード、フィールドテスト

○目的
アタック時のスクラムの安定はセットプレーを安定させ、攻撃に安定したボールを配球する原因の一つである。また、ディフェンス時のスクラムの支配は、相手の攻撃のオプションを奪い、ディフェンスを効果的におこないターンオーバーをもたらすと考えられ、スクラムを有利に組むことは、試合の展開を有利にする要因の一つである。
 一般的にスクラム力の評価には、ストレンゲージを用いた静的な筋力(等尺性筋活動様式)を評価する報告が散見されるが、実際のスクラムは対戦相手のスクラム力や戦術などによって静的な筋力発揮(等尺性筋活動様式)だけではなく動的な筋力発揮(等張性筋活動様式)でのスクラムも行われている。   
しかしながら、動的なスクラム力を評価する検討は、現在のところ十分であるとはいえない。
本研究では、動的なスクラム力を評価するためにスクラムスピードを測定し、スクラム力とスクラムスピードとの関係について検討を試みた。

○方法
被験者は大学ラグビー部に所属するフォワード選手12名(身長:174.0±5.91cm、体重:91.5±11.9kg)で、ポジションは、フロントロー5名、セカンドロー4名、バックロー3名である。
スクラムスピードの測定方法は、1人の被験者が実際のスクラムに近い姿勢でスクラムマシン(推定重力300kg)を最大努力で押す際のスクラムスピード(m/s)を、スクラムマシンに取り付けたケーブルがリールから引き出された長さと時間から平均速度を計測するフィットロダイン(FiTRONiC s.r.o社製)を用いて計測した。
また、スクラム力は、スクラムスピードと同様の方法でスクラムマシンに筋力計(ヤガミ社製)を取り付け、スクラム力(kg)を計測した。
スクラムスピードとスクラム力との相関を算出し、スクラムスピードでスクラム力を評価できるかの妥当性を検討した。

○結果と考察
スクラムスピードの平均は0.57±0.10m/sであり、スクラム力の平均は、161.9±53.7kgであった。 
また、スクラムスピードとスクラム力との間に有意な相関(r=0.82 p<0.01)が認められた。
ストレンゲージを用いてスクラム力を測定した先行研究によると、大学レベルで平均114kg、体重63.5kg、社会人レベルで144kg、体重73.8kgであると報告している(辻野、小田,1990)。この先行研究と本研究の結果を比較した場合、本研究の測定数値が先行研究よりも大きく上回る結果となるが、スクラムでは、体重の約80%の力が相手にかかるといわれている(辻野,1988)ため、スクラム力を絶対値ではなく相対値で評価した。
その結果、スクラム力の相対値は1.77kg/BWとなり、先行研究で示されたスクラム力の相対値は社会人レベルで1.95kg/BW、大学レベルで1.79kg/BWであったため、本研究の結果とほぼ一致している。
 以上の結果から、動的なスクラム力の評価に、推定重量300kgのスクラムマシンを前方に押す際のスクラムスピードが、フィールドで実施する実践的なスクラム力の評価に対する妥当性が高いことが示唆された。

○まとめ
 本研究の結果から、フィットロダインで計測したスクラムスピードは、フィールドでの実践的な動的なスクラム力の評価に有効的な方法であること考えられる。

ラグビーにおけるスクラム強化のための特異的筋力トレーニング

ラグビーにおけるスクラム強化のための特異的筋力トレーニング菅野昌明(愛知学院大学ラグビー部)
高田正義(愛知学院大学)
高津浩彰(豊田工業高等専門学校)

キーワード:スクラム、特異的筋力トレーニング、スクワット

○目的
アタック時のスクラムの安定は、セットプレーを有利にすると共に、有効なボールを供給する要因の一つとなる。これに対し、ディフェンス時のスクラムの支配は、相手の攻撃のオプションを奪い、効果的なディフェンスを可能にさせるといえる。すなわち、スクラムの有効性は、その後の試合展開に大きな影響を及ぼすものと考えられる。
一般的にスクワットは、ラグビー選手の下半身を強化する筋力トレーニングとして有効であるとされ、スクラム力の強化にスクワットが多用されている。    
特異性の原則に基づく筋力トレーニングの実施には、競技動作において活動する筋群に刺激を与え、さらに競技動作の関節角度、動作速度、筋活動様式に類似するエクササイズを選択することが重要であると示唆されている(Fleck and Kraemer,1988)。
 しかしながら、スクラムの動作特性を考慮した特異的なスクワットの検討は、現在のところ十分であるとはいえない。本研究では、スクラムを強化する特異的筋力トレーニング方法を模索するために、スクラムスピードとスクワットの関係について検討を試みた。

○方法
被験者は、筋力トレーニングを十分に行っている大学ラグビー部に所属するフォワード選手21名で、ポジションは、フロントロー9名、セカンドロー7名、バックロー5名であった。測定項目は1人の被験者が実際のスクラムに近い姿勢でスクラムマシンを最大努力で押す際のスクラムスピード(m/s)を、フィットロダイン(FiTRONiC s.r.o社製)を用いて測定した。また、大腿部の上面が床と平行になる姿勢までしゃがんだ状態から立ち上がるバックスクワット(BSQ)、膝関節屈曲90±10°位の静止姿勢から立ち上がるコンセントリック・バックスクワット(CBSQ)、膝関節屈曲90±10°位の静止姿勢から立ち上がるコンセントリック・フロントスクワット(CFSQ)の最大筋力(1RM)、を測定した。
スクラムスピードと3種類のスクワットの最大筋力(1RM)との相関を算出し、スクラム強化のための特異的な筋力トレーニング項目について検討した。

○結果と考察
スクラムスピードと3種類のスクワットとの相関係数を算出した結果、フォワード全体では、BSQ :r=0.77(p<0.01)、CFSQ:r=0.66(p<0.01)、CBSQ:r=0.64(p<0.01)の順に有意な相関を示した。
また、フロントローでは、BSQ:r=0.94(p<0.01)、CFSQ:r=0.81(p<0.01)、CBSQ:r=0.71(p<0.05)の順に有意な相関を示した。
 スクラムの関節角度の先行研究によれば、股関節は123 ± 24° 、膝関節は107 ± 13°、足関節は78 ± 11°であり(Quarrie and Wilson, 2000)、筋活動様式は下肢の諸関節を屈曲した状態から爆発的に伸展するコンセントリック筋活動あると考えられるため、下肢の関節角度や筋活動様式から3種類のスクワットの中では、CFSQが最もスクラムとの特異性が高いと考えられる。
 しかし、スクラムスピードとの高い相関を示した種目は、BSQ、CFSQ、CBSQの順であった。この結果は、BSQが年間を通じて筋力トレーニングプログラムに組み入れられているためであると考えられ、次にCFSQが高い相関を示したことは、フロントスクワットがスクラム力強化のための特異的な筋力トレーニングである可能性を示し、特にフロントローの選手においては有効な方法であると考えられる。

○まとめ
本研究の結果から、スクラム強化のためのスクワットトレーニングの有効性が示唆された。また、フロントスクワットとスクラムスピードのトレーニング効果については今後のさらなる検討が必要である。

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