日本聴覚障害者ラグビー連盟(デフラグビー)の活動について

日本聴覚障害者ラグビー連盟(デフラグビー)の活動について

千葉英史(追手門学院大学・日本聴覚障害者ラグビー連盟)
落合孝幸(日本聴覚障害者ラグビー連盟)
長田耕治(日本聴覚障害者ラグビー連盟)
坂崎孝浩(日本聴覚障害者ラグビー連盟)

キーワード:デフラグビー、聴覚障害者、活動、コミュニケーション

○はじめに
日本におけるデフラグビーの取り組みは、1994年12月に「日本聴覚障害者ラグビーを考える会」として発足されて10余年となる。1997年10月に日本聴覚障害者ラグビークラブ(以下、JDRC)と改名され本格的に普及・育成活動が活発的に開始された。2004年5月に行われた10周年記念式典を機にJDRCから日本聴覚障害者ラグビー連盟(以下、JDRU)に変更した。
本研究では、このJDRUの10余年の歩みを追いかけ、活動実態を調査し、今後の普及・育成・強化活動の一助となることを期することを目的とした。

○日本におけるデフラグビーの活動
(1)活動目的・内容
聴覚障害者及びその関係者がラグビー競技に親しみ、競技力向上と同競技の振興と普及を図り、同時に聴覚障害者及びその関係者における生活の質の向上に寄与することを目標とする。
(2)活動内容
JDRUは普及・育成・強化活動を行うため執行委員会・事務局を設けている。
(3)国際交流
2002年8月10日~24日に、「第1回聴覚障害者(デフ)ラグビー世界選手権」がニュージーランドにて行われ、デフ日本代表チームも参加し7人制大会に臨んだ。
2005年8月 には、単独クラブチームとして英国遠征が行われ、イングランド・ウェールズ・スコットランドの各デフ代表と対戦した。

○デフラグビーへの参加とコミュニケーション
(1)聴覚障害者のデフラグビーへの参加基準
デフラグビーの世界大会の参加資格が、両耳平均聴力レベル25dB以上(2002年大会基準)という、軽度の聴覚障害者の参加を認めており、その聴力レベルから一緒にラグビーが出来るのである。
(2)コミュニケーションの方法について
デフラグビープレーヤーも聴覚障害レベルで様々な選手が集まっている。また、指導者やサポーターとして参加している人には健聴者もおり、その健聴者の中にも手話が使える人と使えない人と存在している。このような背景からチーム内でのコミュニケーションの方法が複雑になっている。

○おわりに
第1回世界大会の参加が決定され、世界大会の参加基準が明確となった。日本ラグビーフットボール協会が協賛する世界大会出場の選手選考を兼ねた強化合宿では、高校、大学でのラグビー経験者が集まり、指導者には日本協会から派遣された健聴者が参加した。しかし、発足当時から携わっていた聾者と、参加基準に満たしている難聴者とでコミュニケーションの方法で幾つかの問題が生じた。同様に、選手と指導者間でも練習方法や戦術・戦法の伝達などで説明に時間が掛かりすぎて練習時間が長くなったり、意図としている内容が伝わらず、チーム作りに難色があった。
 そこで、健聴者・難聴者は手話を覚える努力をしたり、手話の通訳者や口話を読み取れる者が聾者に手話で伝達したりと諦めないコミュニケーションを目指した。また、指導者側はグラウンド内にホワイトボードを持ち込んで、文字や図を使うことによってより効率よく、効果的に意図を理解出来るよう工夫をした。
また、室内でのミーティングでは、資料・PCでのパワーポイントなど視覚からのプレゼンテーションを含め、手話を中心にコミュニケーションを取る環境づくりに努め、最終的に両者が歩みより、コミュニケーションを成立させていったのである。
会話でコミュニケーションが取れる人も手話を覚えたり、手話しかできない人も積極的に交流したり、言葉が出せる人はできるだけ手話に言葉を添えるなどして、相互に理解しあえる環境を作り上げた。
現在、第2回世界大会の準備を国際聴覚障害者ラグビー機構(I.D.R.O)が検討しており、JDRUは、日本デフラグビーが世界での対戦に通じるよう競技力の向上を目指し、若手育成など、より一層の発展に努めている。

ラグビーにおけるスクラム力の実践的測定方法について

ラグビーにおけるスクラム力の実践的測定方法について青石哲也(愛知学院大学)
菅野昌明(愛知学院大学ラグビー部)
岡本昌也(愛知工業大学)

キーワード:スクラム力、スクラムスピード、フィールドテスト

○目的
アタック時のスクラムの安定はセットプレーを安定させ、攻撃に安定したボールを配球する原因の一つである。また、ディフェンス時のスクラムの支配は、相手の攻撃のオプションを奪い、ディフェンスを効果的におこないターンオーバーをもたらすと考えられ、スクラムを有利に組むことは、試合の展開を有利にする要因の一つである。
 一般的にスクラム力の評価には、ストレンゲージを用いた静的な筋力(等尺性筋活動様式)を評価する報告が散見されるが、実際のスクラムは対戦相手のスクラム力や戦術などによって静的な筋力発揮(等尺性筋活動様式)だけではなく動的な筋力発揮(等張性筋活動様式)でのスクラムも行われている。   
しかしながら、動的なスクラム力を評価する検討は、現在のところ十分であるとはいえない。
本研究では、動的なスクラム力を評価するためにスクラムスピードを測定し、スクラム力とスクラムスピードとの関係について検討を試みた。

○方法
被験者は大学ラグビー部に所属するフォワード選手12名(身長:174.0±5.91cm、体重:91.5±11.9kg)で、ポジションは、フロントロー5名、セカンドロー4名、バックロー3名である。
スクラムスピードの測定方法は、1人の被験者が実際のスクラムに近い姿勢でスクラムマシン(推定重力300kg)を最大努力で押す際のスクラムスピード(m/s)を、スクラムマシンに取り付けたケーブルがリールから引き出された長さと時間から平均速度を計測するフィットロダイン(FiTRONiC s.r.o社製)を用いて計測した。
また、スクラム力は、スクラムスピードと同様の方法でスクラムマシンに筋力計(ヤガミ社製)を取り付け、スクラム力(kg)を計測した。
スクラムスピードとスクラム力との相関を算出し、スクラムスピードでスクラム力を評価できるかの妥当性を検討した。

○結果と考察
スクラムスピードの平均は0.57±0.10m/sであり、スクラム力の平均は、161.9±53.7kgであった。 
また、スクラムスピードとスクラム力との間に有意な相関(r=0.82 p<0.01)が認められた。
ストレンゲージを用いてスクラム力を測定した先行研究によると、大学レベルで平均114kg、体重63.5kg、社会人レベルで144kg、体重73.8kgであると報告している(辻野、小田,1990)。この先行研究と本研究の結果を比較した場合、本研究の測定数値が先行研究よりも大きく上回る結果となるが、スクラムでは、体重の約80%の力が相手にかかるといわれている(辻野,1988)ため、スクラム力を絶対値ではなく相対値で評価した。
その結果、スクラム力の相対値は1.77kg/BWとなり、先行研究で示されたスクラム力の相対値は社会人レベルで1.95kg/BW、大学レベルで1.79kg/BWであったため、本研究の結果とほぼ一致している。
 以上の結果から、動的なスクラム力の評価に、推定重量300kgのスクラムマシンを前方に押す際のスクラムスピードが、フィールドで実施する実践的なスクラム力の評価に対する妥当性が高いことが示唆された。

○まとめ
 本研究の結果から、フィットロダインで計測したスクラムスピードは、フィールドでの実践的な動的なスクラム力の評価に有効的な方法であること考えられる。

ラグビーにおけるスクラム強化のための特異的筋力トレーニング

ラグビーにおけるスクラム強化のための特異的筋力トレーニング菅野昌明(愛知学院大学ラグビー部)
高田正義(愛知学院大学)
高津浩彰(豊田工業高等専門学校)

キーワード:スクラム、特異的筋力トレーニング、スクワット

○目的
アタック時のスクラムの安定は、セットプレーを有利にすると共に、有効なボールを供給する要因の一つとなる。これに対し、ディフェンス時のスクラムの支配は、相手の攻撃のオプションを奪い、効果的なディフェンスを可能にさせるといえる。すなわち、スクラムの有効性は、その後の試合展開に大きな影響を及ぼすものと考えられる。
一般的にスクワットは、ラグビー選手の下半身を強化する筋力トレーニングとして有効であるとされ、スクラム力の強化にスクワットが多用されている。    
特異性の原則に基づく筋力トレーニングの実施には、競技動作において活動する筋群に刺激を与え、さらに競技動作の関節角度、動作速度、筋活動様式に類似するエクササイズを選択することが重要であると示唆されている(Fleck and Kraemer,1988)。
 しかしながら、スクラムの動作特性を考慮した特異的なスクワットの検討は、現在のところ十分であるとはいえない。本研究では、スクラムを強化する特異的筋力トレーニング方法を模索するために、スクラムスピードとスクワットの関係について検討を試みた。

○方法
被験者は、筋力トレーニングを十分に行っている大学ラグビー部に所属するフォワード選手21名で、ポジションは、フロントロー9名、セカンドロー7名、バックロー5名であった。測定項目は1人の被験者が実際のスクラムに近い姿勢でスクラムマシンを最大努力で押す際のスクラムスピード(m/s)を、フィットロダイン(FiTRONiC s.r.o社製)を用いて測定した。また、大腿部の上面が床と平行になる姿勢までしゃがんだ状態から立ち上がるバックスクワット(BSQ)、膝関節屈曲90±10°位の静止姿勢から立ち上がるコンセントリック・バックスクワット(CBSQ)、膝関節屈曲90±10°位の静止姿勢から立ち上がるコンセントリック・フロントスクワット(CFSQ)の最大筋力(1RM)、を測定した。
スクラムスピードと3種類のスクワットの最大筋力(1RM)との相関を算出し、スクラム強化のための特異的な筋力トレーニング項目について検討した。

○結果と考察
スクラムスピードと3種類のスクワットとの相関係数を算出した結果、フォワード全体では、BSQ :r=0.77(p<0.01)、CFSQ:r=0.66(p<0.01)、CBSQ:r=0.64(p<0.01)の順に有意な相関を示した。
また、フロントローでは、BSQ:r=0.94(p<0.01)、CFSQ:r=0.81(p<0.01)、CBSQ:r=0.71(p<0.05)の順に有意な相関を示した。
 スクラムの関節角度の先行研究によれば、股関節は123 ± 24° 、膝関節は107 ± 13°、足関節は78 ± 11°であり(Quarrie and Wilson, 2000)、筋活動様式は下肢の諸関節を屈曲した状態から爆発的に伸展するコンセントリック筋活動あると考えられるため、下肢の関節角度や筋活動様式から3種類のスクワットの中では、CFSQが最もスクラムとの特異性が高いと考えられる。
 しかし、スクラムスピードとの高い相関を示した種目は、BSQ、CFSQ、CBSQの順であった。この結果は、BSQが年間を通じて筋力トレーニングプログラムに組み入れられているためであると考えられ、次にCFSQが高い相関を示したことは、フロントスクワットがスクラム力強化のための特異的な筋力トレーニングである可能性を示し、特にフロントローの選手においては有効な方法であると考えられる。

○まとめ
本研究の結果から、スクラム強化のためのスクワットトレーニングの有効性が示唆された。また、フロントスクワットとスクラムスピードのトレーニング効果については今後のさらなる検討が必要である。

ニュージーランドのゴルフクロス

ニュージーランドのゴルフクロス

森 仁志(工学院大学)
溝畑 寛治(関西大学)

キーワード:ニュージーランド、ゴルフクロス、ショットとキック、混淆、変容

○目的
 競技ルールの改定が頻繁に行われるラグビーは、スポーツの営みが歴史的な変容の過程にあることを示す一つの具体例といえる。ニュージーランドは、その競技レベルの高さから、ラグビーの(ルールに限らず、スキル、戦術等の)変容を牽引してきたが、近年同国では、ラグビーの要素を取り入れつつも当該ジャンルに収まりきらない新たなスポーツが生み出された。本発表では、ラグビーとゴルフの要素が混淆して誕生した「ゴルフクロス」というスポーツを取り上げ、ラグビーの要素を基に生み出されたこの競技が、可逆的にラグビーに新たな変容をもたらす可能性について考察してみたい。

○ゴルフクロスの概要と特徴
1989年の春に、ニュージーランド南島のワナカで、ゴルフ場のグリーンキーパーだったジョージ・スタッドホルムとロルフ・ミルズが、バートン・シルバーの考案した楕円形のボールを用いてプレーしたのが最初とされる。ルール自体は、基本的にゴルフと同じで、ホールごとのスコアの合計により競う。プレーヤーが使用する道具は、ゴルフ用の通常のクラブ、ゴルフクロス用の楕円形のボール、楕円形のボール用に開発された専用のティーカップである。ティーグランド、フェアウェイなどの構成もゴルフと同じだが、グリーンにあたる部分はヤードと呼ばれる。ヤードには、ラグビーのゴールポストに似た形状のゴルフクロス専用のゴールが設置されており、ボールが(クロスバーの後方に張られた)ネットに入った時点でそのホールは終了する。
 ゴルフクロスの最大の特徴は、意外なことに、ボールのコントロールの容易さにある。空気中での軌道はむろん、着地後の転がり方までコントロールすることができる。ショットで重要なのは、スイングそれ自体ではなく、楕円形のボールの置き方である。換言すれば、「打ち方」ではなく、「置き方」さえ覚えれば、初心者でもボールの軌道を自在に操ることができる。本発表では具体的に、ゴルフクロスの基本的なショット、すなわち「置き方」の五種類のバリエーションとその軌道を詳しく紹介する。

○考察
ゴルフクロスといういわば「常識はずれ」な発想によるスポーツは、ラグビーのプレーの幅を狭めてしまう「常識」や固定観念の存在を暴き出す。「楕円形のラグビーボールはどう転がるか分からない。だから、ラグビーは面白い」は耳慣れた常套句であるが、キックしたボールの空気中の軌道やグランドへ着地後の転がり方まで完全に操ることができるとすれば、これまでにない新しいプレースタイルや戦術、ひいてはルール自体の変容をもたらす可能性さえも否定できない。むろん、こうした視点は同時に、ラグビーをはじめとしたスポーツの営みが、固定的かつ非動態的なものでは留まりえず歴史的な変容の只中にあることを改めて示唆するものといえる。

デフラグビーに関する基礎調査研究

デフラグビーに関する基礎調査研究
-東海地区の高等学校を対象に-

寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)
小中一輝(日本聴覚障害者ラグビー連盟)
金子香織(日本聴覚障害者ラグビー連盟)
寺田恭子(名古屋短期大学)

キーワード:デフラグビー、聴覚障害者、活動実態

○研究の目的
デフラグビーは、1991年にニュージーランドでデフラグビー協会が設立され、日本では1997年に日本聴覚障害者ラグビークラブが立ち上がった。2002年には第1回デフラグビー世界大会が開催され、日本代表チームも出場している。その後も活動の輪を広げているものの、デフラグビーチームの存在あるいはデフラグビーそのものの認知度は高いとは言いがたく、選手数は横ばい状態である。
 そこで今回は、高等学校に通う生徒の聴覚障害者および聴覚に障害を持つラグビープレイヤーの実態について把握し、デフラグビー普及のための具体的な方法を検討することを目的とする。

○研究の方法
 調査内容:高等学校における聴覚に障害を持つ生徒の把握および聴覚障害者でラグビーを行なっている生徒の実態、またラグビー指導者のデフラグビーに関する知識について
 調査対象:東海3県(愛知・岐阜・三重)のラグビー部のある高等学校104校

   調査期間:2007年11月26日~12月20日
   調査方法:郵送法
   回答数 :68校(回収率65,4%)

○結果
 アンケートの回収率は65.4%(68校)、回答者は全員が男性であった。またラグビー部指導者のうち54.4%が保健体育教員であり、ラグビーが専門種目の指導者は91%であった。今までに聴覚に障害のある生徒に体育の授業あるいはラグビーを教えたことのある指導者はそれぞれ32.9%、10.5%であった。ただし、現在聴覚障害のある生徒を教えていると回答した指導者はそれぞれ6%、1.5%と低かった。また、指導者自身がデフラグビーを知っているかという質問では、「よく知っている」5.9%、「知っている」57.4%、「あまり知らない」20.6%、「全く知らない」16.2%という結果であった。「よく知っている」および「知っている」と回答した指導者は、ラグビーマガジンなどラグビー情報誌で知識を得たり、デフラグビーについて書かれた本を読んでという回答がほとんどであり、実際にデフラグビーを観たり、体験したというのはほんの一握りであった。デフラグビーに関する情報はラグビー部に所属する生徒に必要かという質問では、13.4%の指導者が「とても必要」と回答し、「必要である」という回答とあわせると71.6%となった。一方、ラグビー部以外の生徒への情報提供に関しては教育的立場から必要だと答える指導者が64.1%いる反面、「あまり必要でない」という回答も34.3 %であった。なお「全く必要ない」という回答はなかった。

○考察および今後の課題
 結果を見る限り高等学校でラグビー指導に関わっている教員(指導者)はおおむねデフラグビーについてその存在については認識しているものの、実際に聴覚障害を持つ選手にラグビーを指導したという経験を有するものはごく少数でしかない。さらに、ラグビーというスポーツの発展を考えた上で、あなたが高校のラグビー指導(健常者を対象とした部活動)以外に興味が持てるものはなにかという質問で、「デフラグビー」を挙げた指導者数は19.7%と少なかった。よって今後の課題の一つとして、デフラグビーの存在を認めるだけではなく、興味関心を持ってデフラグビーに関われる指導者へのアプローチ方法が挙げられる。なお自由記述では、今回のアンケートで初めてデフラグビーの存在を知ったという指導者もおり、デフラグビーの存在をアピールできたという点でアンケート調査自体が役立ったと言える。

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