93年の歴史を振り返って

〇入江直樹 山田康博 三神憲一(滋賀大学体育会ラグビー部)

【目的】
滋賀大学体育会ラグビー部(以下、ラグビー部)は総監督、監督、コーチ、選手、マネージャー以下総勢53名のチームで、今年度は関西大学リーグCリーグに所属している。今シーズンはDリーグとの入替戦に敗れ、来年度はDリーグでプレーすることとなっている。このラグビー部は本年に93周年を迎える。今回我々はその軌跡と経緯を調査確認することでクラブ運営に関わってこられた先輩方々の思いや情熱を肌で感じ、この発表が今後のチームの飛躍の個々の成長を促す糧となると考える。

【方法】
ラグビー部OB会である陵水ラガークラブ(以下OB会)のメンバーが保有している資料。写真などを元に聞き取り調査を行った。また滋賀大学経済研究所で保有している資料を閲覧して有史以来の情報をできるだけ収集することとした。

【結果】
ラグビー部は滋賀大学の体育会に所属しているが、この滋賀大学は大正11年に設立された彦根高等商業学校と明治8年に設立された滋賀県師範学校が昭和24年に統一され滋賀大学となった。そのため現在も経済学部は彦根に、教育学部は大津に、と別々の拠点を構えている。
ラグビー部の歴史は1924年(大正13年)から始まる。当時の体育教官であった米川教授よりラグビー部を創設するよう要請があり、京都一商時代にラグビー経験のあった今村米蔵氏がこれに応え創設した。翌年1925年には初の対外試合を大阪高等商業学校(現在の大阪市立大学)、甲南高等学校(現在の甲南大学)と行っている。
その後1935年頃には戦前のラグビー人気が高まり、部員も増加していった。しかし終戦後の1944年に彦根高等商業学校は彦根工業専門学校となり、ラグビー部は休部となった。その後1949年に新制滋賀大学が設置されたことからその翌年にはラグビー部復活のための準備が始まった。その結果、1952年に正式にラグビー部は復活した。その後毎年卒業生を輩出し現在に至っているところである。

【考察】
今回我々は90年を超える歴史を持つ我がクラブの成り立ちから振り返ってみた。そこから感じたことは、先輩たちは限りある資源、限られた条件の下で必死にラグビーと向き合っていた、ということである。そして後輩のために何ができるか、どうすればいいのかを考えて多くの物事を後輩に託していただいた。今我々はそれを大事にしているだろうか、尊敬の念を抱いているだろうか、ということを真剣に考えなければならない。今置かれている環境で最善を尽くすことが今の我々の為すべきことだと改めて認識するところである。

ラグビー事故勉強会における取り組み

中村周平(同志社大学大学院)

キーワード:ラグビー事故 事故後の対応
【目的】

1996年から2013年において、日本ラグビーフットボール協会(以下、ラグビー協会)に「311件」の重症傷害事故報告書が提出されている 。ラグビー協会は、2008年から「安全推進講習会」をチーム登録の義務講習とするなど、「重症事故撲滅」、「安全なラグビ-の普及・徹底」をミッションに掲げ取り組んできた 。その後、年間事故数は大幅に減少したものの、撲滅までに至っていない。もっとも、ラグビーのようなコンタクトスポーツにおいて事故を「0」にすることは困難である。そのため、日々練習に励む選手や指導者は潜在的な「事故当事者」であるといえる。その事故当事者の方々に事故に関する現状を知ってもらうための場が必要であると考えている。

【方法】

スポーツ事故の実態は当該スポーツの普及にとって時に、ネガティブな影響を及ぼすため、事故の情報や経験が共有され、広く周知されることは少なく、このことが同類の事故回避の妨げになり、また事故の補償をめぐる紛争を引き起こす一因となる。その現状に対する取り組みとして、事故に遭われた選手や家族・指導者の現状と実態を把握し、スポーツ関係者との間で問題を共有するためにラグビー事故勉強会(以下、事故勉強会)を開催する。実際にスポーツ活動中に事故に遭われた選手や家族、その当時の指導者の方をゲストスピーカーとしてお招きし、事故に至るまでの経緯、事故後の対応、事故後の経済的支援、事故後の関係性などについてお話をしていただく。

【結果・考察】

これまでに計6回の事故勉強会を開催した。ラグビーのほか、柔道、アメリカンフットボールの事故当事者の方にお越しいただき、事故に関する情報提供をしていただいた。その中で、事故後の後遺症といった「一次的被害」だけでなく、入院費や自宅のバリアフリー改修などによる経済的な困窮、相手側との対立、チーム内での孤立といった「二次的被害」の存在が明らかとなった。また、事故勉強会の参加者にはスポーツ事故訴訟の経験がある弁護士の方、スポーツ法学や法医学を専門とされている大学教員の方、小学校の元教員の方、各々の立場からスポーツ事故対応や補償制度の現状、海外の実践事例などを共有する「場」ともなっている。

以上が、事故勉強会の取り組みにおける考察である。スポーツ振興において、事故防止の視点と同時に事故後の経験についての共有がきわめて重要であると考える。


佐藤晴彦『ラグビー競技における頭部事故と対策:日本ラグビーフットボール協会重症傷害事故報告書より』日本脳神経外傷学会、神経外傷38、2015。
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会『ラグビー外傷・障害マニュアル』平成28年4月30日(第6班)

ラグビーの普及に関する縦断的な競技共有の効果に関する一考察

〜競技規則・ラグビー憲章を伝える取り組みの一例〜

○ 早坂一成(名古屋学院大学) 岡本昌也(愛知工業大学)寺田泰人(名古屋経済大学短期大学部)

キーワード:文化・教育的価値 縦断的競技共有 ラグビー憲章
【背景】
2019年WC日本開催へ向けて様々な準備が行われている。競技力の向上はもちろん、ラグビーの持つレガシー、特にフェアプレー、ノーサイドの精神などの文化・教育的価値の継承は恒久的に日本ラグビーが発展、普及していく過程においては必須である。その継承を実践していく上で、競技年齢や競技キャリアの異なるプレーヤーの文化・教育的な価値の共有、つまり縦断・同一的に競技を行うことは効果的であると考えられる。そこでその文化・教育的価値についてラグビー憲章をもとに、縦断的なグレードの交流会の実践例で得た文化・教育的効果について実験的に調査した。

【方法】
以下の条件で、約120分の交流会を行った。
期日:2016年6月4日(土)、12月18日(日)
場所:NG大学 第1グランド
指導者:約30名(NG大学選手1〜4年生)
プレーヤー:S/Nラグビースクール 80名/120名
この交流会の指導者とプレーヤー相互が文化・教育的価値を共有する尺度として、特にラグビーのレガシーの一部,すなわち精神面での啓発指導・支援を促す観点から、以下の競技規則のラグビー憲章に基づいて指導する選手の聞き取りと学習者の効果を観察した。
・ 品位(INTEGRITY):誠実さとフェアプレー
・ 情熱(PASSION):ゲームに対する情熱的な熱意
・ 結束(SOLIDARITY) :友情 絆 チームワーク
・ 規律(DISCIPLINE) :コアバリューの順守
・ 尊重(RESPECT): チームメイト 相手 レフリー

【得られた効果】
本交流会は6年目を迎えたが、PDCAサイクルに基づいてフィードバックを行い、より効果のある技能指導を図ってきた。しかし、技能の向上の観点からはスポットコーチングとしての限られた活動であり、直接的な効果を認めることはできなかった。そこで今年度のようにラグビーのレガシーの一部、すなわち精神面での啓発指導・支援についてラグビー憲章をもとに指導・支援し、以下の効果を指導する選手からの聞き取りと観察から伺うことができた。

表.1 ラグビー憲章をもとにした指導・支援の結果

【今後の展望】
ラグビーの文化・教育的価値を立証するために指導する側の選手及び学習する側の効果を数量的な根拠を導き出すことが必要である。さらには、これらの交流会が体系化され、スポーツ施設開放事業の規模の拡大と多角化が競技の普及を促すことが望まれる。

「ノーサイドの精神」についての一考察 Ⅱ

〇西村克美(嵯峨野高校)、星野繁一(龍谷大学)、髙木應光(神戸居留地研究会)

キーワード:ノーサイドの精神、アフターマッチファンクション

【前回の報告】

前回の日本ラグビー学会で、「ノーサイドの精神についての一考察」を発表した。ラグビーの特徴的な考え方であるノーサイドの精神、それを具現化したアフターマッチファンクション(以下ファンクション)に関して調査を行い、249名から回答を得た。
ファンクションの実施については、残念ながら実施・参加は半数に満たない結果となった。実施については「親善試合・定期戦」が多く、練習試合では、スクール、大学が実施している。公式戦での実施は大学、クラブに多い。一方、高校で実施されていない。
今回は記述された内容をKJ法で分類し、考察した。

【ファンクションを充実させる方策】

各カテゴリーで特徴的な回答が得られた。年齢や経験年数などで異なる様々なアイデアが回答された。それらをKJ法で分類すると、①物理的側面(施設グラウンドの設置状況等)②内容に関するもの(取組み・実施可能な内容、運営、工夫して取り組む・日本式、食事について)③指導者のファンクションに関する認知度を上げる(研修の実施)④ファンクションを実施するための機会を作る(他府県と交流、練習試合等でも実施する、公式戦は逆に難しい、もっと身近に、相手があれば行う)以上4つに分類された。
①物理的側面:クラブハウス等の施設が併設されていないことが多い日本のグラウンドでは、屋内での交流が難しい。「花道を作る」や「ハイタッチをする」、記念撮影などが、具体的な方策として挙げられた。②内容:食事の内容、スクールでは大人はアルコール禁止などの意見があった。③指導者の認知度:もっと指導者の研修が必要という意見が多かった。(高校指導者)④ファンクションの機会:ファンクションをオフィシャルな行事と捉えている指導者が多く、公式戦やレベルの高い試合にファンクションが行われている、という感覚があるのではないかと考える。1日に数試合行われる高校等の公式戦でファンクションを実施するのは困難なことであり、逆に、練習試合等の方が実施しやすいのではないだろうか。

【ノーサイド精神の促進策】

この質問に対しては、各カテゴリーで共通する内容の回答が得られた。①知識・理解(ノーサイド精神を指導者が正しく理解し、部員に指導、啓蒙していく)②試合形式を工夫する、機会を増やす(実施形態を工夫して)③体験(ファンクションへの参加)④内容について(普及、各カテゴリーでコラボし、広がりを持たせる)、以上の4つに分類された。
①知識・理解:ラガーメンがノーサイド精神を理解し、正しく伝えていくことが重要と考えている。また、トーナメント戦ではノーサイド精神が体感しにくいので、定期戦やリーグ戦を増やすという意見があった。②試合形式の工夫,機会の増加:公式戦の時間設定を余裕あるものにする、どんな試合でも実施する等の意見が寄せられた。③体験:観戦や実際のファンクションにも参加する機会を与える、という意見があった。④内容:クラブソングの斉唱やキャプテントーク、エール交換、マンオブ・ザ・マッチの選出などの意見が寄せられた。

【まとめ】

多くの指導者やプレーヤー、レフリーからたくさんの意見を得た。共通しているのは、「ノーサイドの精神、アフターマッチファンクションは、ラグビーフットボールにとって重要なものであり、ラグビーに携わる者すべてが理解し、後世に引き継いでいくものである」という思いに集約されると考える。一方、イギリスで実施されてきたファンクションの形態は、そのまま日本で実施するには困難な面がある。施設面、試合のあり方などが、大きく異なっているからである。試合が終われば、敵味方なくラグビーを愛する仲間として友情を確かめ合う、この考えを中心に置いて、方法はそれぞれのクラブの創意工夫によって開発されるのがよいのではないだろうか。また、日本協会が「ノーサイドの精神を世界へ」というのであれば、日本式のノーサイドの精神、それにちなんだ行事、日本式のファンクションをもっと工夫して実施、創案し、公開・啓発すべきではないだろうか。競技力の向上も必要であるが、ラグビーの尊い精神を普及させることも大切なことである。

ラグビー選手の無酸素性間欠テストにおける追い込みとフィットネステスト能力の関係

高津浩彰(豊田工業高等専門学校) 岡本昌也(愛知工業大学)

【研究の目的】

現代のラグビーではフィットネス能力はプレーを行う上で必要不可欠な能力であり、15人がセットプレーを除く一般プレーで同等に動けることが求められる。一般的に、持久的能力はその生理的限界を迎える以前に心理的限界を迎えることが多い。持久的能力は、心理的限界を超え追い込んだ方が生理的限界に近づき最大限のパフォーマンスに近づくと考えられる。本研究では、ラグビー選手を対象に、限界までの追い込みの度合いと持久的能力の関係を調査する。

【研究方法】

調査対象は、A大学ラグビー選手38名うちデータに用いたのは30名(平均20.2歳 標準偏差1.27)であった。被験者は、心拍計(SUNTO)を装着しyo-yoテスト(無酸素性間欠テスト)を実施した。yo-yoテスト直前1分(yo-yoテスト実施直前の心拍数に用いた)、yo-yoテスト実施中、yo-yoテスト終了後1分のそれぞれの心拍数を時系列で計測した。図1に心拍数の変化の例を示す。1分の立位安静時の後にyo-yoテストを実施し、終了後再び立位安静状態を1分間保った。テストの開始に伴い心拍数は徐々に増加し最高心拍数に達した頃に被験者はテストを終了した。正しくテストを行わなかった被験者のデータは分析対象としなかった。


図1 yo-yoテスト実施時の被験者の心拍数の変化の例

yo-yoテストの往復回数と以下に示す調査項目との関係について検討した。調査項目は、学年、年齢、身長、体重、BMI値、体脂肪率、yo-yoテスト実施直前の心拍数(立位)、yo-yoテスト実施中の平均心拍数、yo-yoテスト終了時の最高心拍数(以下最高心拍数)、追い込み度(最高心拍数を予測最大心拍数で除した値)である。年齢から達成可能な最大心拍数(予測最大心拍数=220-年齢)を算出しパフォーマンス時の最高心拍数を除して、そのパーセンテージを追い込み度(%)とした。追い込み度が高いほど限界まで追い込んだことを示すと考えた。
また、心理的競技能力についても調査した。調査には、徳永らの心理的競技能力診断検査(DIPCA3)を用いた。心理的競技能力総合得点、各因子(競技意欲、精神の安定・集中、自信、作戦能力、協調性)得点、各尺度(忍耐力、闘争心、自己実現意欲、勝利意欲、自己コントロール、リラックス能力、集中力、自信、決断力、予測力、判断力、協調性)得点についてyo-yoテストの往復回数との相関についても調べた。

【結果と考察】

yo-yoテストと相関が0.5以上(中程度の相関)あった調査項目について表1に示す。体重、BMI値、体脂肪率、最高心拍数、平均心拍数、追い込み度(最高心拍数/最大心拍数)について中程度の相関が確認された。
学年、年齢、身長、yo-yoテスト実施直前の心拍数(立位)、心理的競技能力総合得点、各因子(競技意欲、精神の安定・集中、自信、作戦能力、協調性)得点、各尺度(忍耐力、闘争心、自己実現意欲、勝利意欲、自己コントロール、リラックス能力、集中力、自信、決断力、予測力、判断力、協調性)得点については0.5以上の相関がなかった。つまり、これらの項目はyo-yoテストの結果と関係がない可能性が示された。
体重、BMI値、体脂肪の身体特性とテストの結果に負の相関が見られた。この結果は、体重が重いほど、BMI値が高いほど、体脂肪率が高いほどテストの結果が良くなかったことを示している。身体特性がテスト結果に影響している可能性が示された。最高心拍数と正の相関が見られた。この結果は、テスト終了時の最高心拍数が高いほど結果が良かったことを示している。また、追い込み度とyo-yoテストの結果において最も高い相関が見られた。この結果は、追い込んでいた被験者がテストの結果が良かったことを示している。

表1 yo-yoテストと中程度の相関があった調査項目

【まとめ】

本研究は、持久的能力と追い込み度の関係を調査するものであった。その結果から、期待される生理的限界近くの状態に追い込むことができる選手が、試合に必要な持久的能力が高い可能性が示された。

« »