ラグビー事故勉強会における取り組み

中村周平(同志社大学大学院)

キーワード:ラグビー事故 事故後の対応
【目的】

1996年から2013年において、日本ラグビーフットボール協会(以下、ラグビー協会)に「311件」の重症傷害事故報告書が提出されている 。ラグビー協会は、2008年から「安全推進講習会」をチーム登録の義務講習とするなど、「重症事故撲滅」、「安全なラグビ-の普及・徹底」をミッションに掲げ取り組んできた 。その後、年間事故数は大幅に減少したものの、撲滅までに至っていない。もっとも、ラグビーのようなコンタクトスポーツにおいて事故を「0」にすることは困難である。そのため、日々練習に励む選手や指導者は潜在的な「事故当事者」であるといえる。その事故当事者の方々に事故に関する現状を知ってもらうための場が必要であると考えている。

【方法】

スポーツ事故の実態は当該スポーツの普及にとって時に、ネガティブな影響を及ぼすため、事故の情報や経験が共有され、広く周知されることは少なく、このことが同類の事故回避の妨げになり、また事故の補償をめぐる紛争を引き起こす一因となる。その現状に対する取り組みとして、事故に遭われた選手や家族・指導者の現状と実態を把握し、スポーツ関係者との間で問題を共有するためにラグビー事故勉強会(以下、事故勉強会)を開催する。実際にスポーツ活動中に事故に遭われた選手や家族、その当時の指導者の方をゲストスピーカーとしてお招きし、事故に至るまでの経緯、事故後の対応、事故後の経済的支援、事故後の関係性などについてお話をしていただく。

【結果・考察】

これまでに計6回の事故勉強会を開催した。ラグビーのほか、柔道、アメリカンフットボールの事故当事者の方にお越しいただき、事故に関する情報提供をしていただいた。その中で、事故後の後遺症といった「一次的被害」だけでなく、入院費や自宅のバリアフリー改修などによる経済的な困窮、相手側との対立、チーム内での孤立といった「二次的被害」の存在が明らかとなった。また、事故勉強会の参加者にはスポーツ事故訴訟の経験がある弁護士の方、スポーツ法学や法医学を専門とされている大学教員の方、小学校の元教員の方、各々の立場からスポーツ事故対応や補償制度の現状、海外の実践事例などを共有する「場」ともなっている。

以上が、事故勉強会の取り組みにおける考察である。スポーツ振興において、事故防止の視点と同時に事故後の経験についての共有がきわめて重要であると考える。


佐藤晴彦『ラグビー競技における頭部事故と対策:日本ラグビーフットボール協会重症傷害事故報告書より』日本脳神経外傷学会、神経外傷38、2015。
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会『ラグビー外傷・障害マニュアル』平成28年4月30日(第6班)