腕振り動作がスプリント・パフォーマンスに及ぼす影響

腕振り動作がスプリント・パフォーマンスに及ぼす影響

高田正義(愛知学院大学)
菅野昌明(愛知学院大学ラグビー部)
高津浩彰(豊田工業高等専門学校)

キーワード:腕振り動作、スプリント・パフォーマンス、ボール保持、片腕振り

【目的】
ラグビーは、他のオープンスキル系球技スポーツのサッカーやバスケットボールなどと比較して、プレー中の走動作が異なるといえる。
大きく異なる要因の一つとして、ボールを手腕で抱えた状態で走ることが挙げられる。
陸上競技の短距離走では、積極的に両腕を振ることによって、走スピードの向上に貢献していると言われている。しかしながら、ラグビー選手は、ボールを保持したままで走ることにより、腕振り動作が十分に行えない状態にあることが考えられる。
また、ラグビー選手における効果的なスピード・トレーニングを検討する必要性もあるだろう。そこで、本研究ではスプリント・パフォーマンスにおけるスピードに焦点を絞り、ボール保持時および、片腕のみの腕振り動作の影響を明らかにすること目的とした。

【方法】
対象は、18歳から22歳までの東海学生ラグビーフットボールAリーグに所属する、バックス選手16名であった。実験は、
①通常スプリント運動(Double Arm Sprint:以下DAS)、
②片手・片腕でボール抱えたスプリント運動(Ball Keep Sprint:以下BKS)、
③片手・片腕を身体に密着静止したスプリント運動(Single Arm Sprint:以下SAS)
の3条件で行った。いずれのスプリント動作も、片側の脚を前方に構え、反対側の脚を後方に構えた姿勢からスタートした。被験者は、普段の練習で使用しているスパイクを着用して実験を行った。測定項目は、10mスプリントと20mスプリントであった。測定方法は、スタートライン、10mライン、20mラインの垂直線上に光電管(BROWER Timing Systems)を設定し、それぞれの通過所要時間を測定した。条件ごとに、3回の測定を行い記録した。各測定値は、一元配置の分散分析を行った。分析には、SPSS for Windowsを使用した。

【結果と考察】
10mスプリント運動における平均値はDASで1.94±0.42秒、BKSで1.94±0.06秒、SASで1.99±0.05秒となった。これに対し、20mスプリント運動における平均値はDASで3.28±0.10秒、BKSで3.31±0.10秒、SASで3.37±0.10秒となった。10mスプリント(F=21.44、p<.001)と20mスプリント(F=28.75、p<.001)の両者に有意差が認められた。多重比較の結果、10m、20mスプリント共に、DASとSAS、BKSとSASの間に有意差が認められた。しかしながら、DASとBKSの間には有意差が認められなかった。すなわち、DASとBKSのスプリント・パフォーマンスは、同様であることが示唆された。
スプリント運動における、水平速度の発生には脚の運動が大きく貢献しているといわれる。これは、両腕を左右交互へ積極的に振ることによる、脚の地面反発力が増大して、走スピードの向上に貢献していると考えられている。BKSの場合、DASほどではないにせよ、積極的に腕を振る動作が確認できた。つまり、ボールを抱えた状態においても、スプリント運動の水平速度向上には、腕振り動作が貢献していると推測することができる。

【まとめ】
①DASとBKSは、類似の運動形態であることが示唆された。
②DASとSAS、BKSとSASは、共に異なる運動形態であることが示唆された。
③両腕を左右交互に、積極的に振ることにより、スプリント・パフォーマンスが向上することが推察される。