ラグビーにおけるスクラム力の実践的測定方法について青石哲也(愛知学院大学)
菅野昌明(愛知学院大学ラグビー部)
岡本昌也(愛知工業大学)
キーワード:スクラム力、スクラムスピード、フィールドテスト
○目的
アタック時のスクラムの安定はセットプレーを安定させ、攻撃に安定したボールを配球する原因の一つである。また、ディフェンス時のスクラムの支配は、相手の攻撃のオプションを奪い、ディフェンスを効果的におこないターンオーバーをもたらすと考えられ、スクラムを有利に組むことは、試合の展開を有利にする要因の一つである。
一般的にスクラム力の評価には、ストレンゲージを用いた静的な筋力(等尺性筋活動様式)を評価する報告が散見されるが、実際のスクラムは対戦相手のスクラム力や戦術などによって静的な筋力発揮(等尺性筋活動様式)だけではなく動的な筋力発揮(等張性筋活動様式)でのスクラムも行われている。
しかしながら、動的なスクラム力を評価する検討は、現在のところ十分であるとはいえない。
本研究では、動的なスクラム力を評価するためにスクラムスピードを測定し、スクラム力とスクラムスピードとの関係について検討を試みた。
○方法
被験者は大学ラグビー部に所属するフォワード選手12名(身長:174.0±5.91cm、体重:91.5±11.9kg)で、ポジションは、フロントロー5名、セカンドロー4名、バックロー3名である。
スクラムスピードの測定方法は、1人の被験者が実際のスクラムに近い姿勢でスクラムマシン(推定重力300kg)を最大努力で押す際のスクラムスピード(m/s)を、スクラムマシンに取り付けたケーブルがリールから引き出された長さと時間から平均速度を計測するフィットロダイン(FiTRONiC s.r.o社製)を用いて計測した。
また、スクラム力は、スクラムスピードと同様の方法でスクラムマシンに筋力計(ヤガミ社製)を取り付け、スクラム力(kg)を計測した。
スクラムスピードとスクラム力との相関を算出し、スクラムスピードでスクラム力を評価できるかの妥当性を検討した。
○結果と考察
スクラムスピードの平均は0.57±0.10m/sであり、スクラム力の平均は、161.9±53.7kgであった。
また、スクラムスピードとスクラム力との間に有意な相関(r=0.82 p<0.01)が認められた。
ストレンゲージを用いてスクラム力を測定した先行研究によると、大学レベルで平均114kg、体重63.5kg、社会人レベルで144kg、体重73.8kgであると報告している(辻野、小田,1990)。この先行研究と本研究の結果を比較した場合、本研究の測定数値が先行研究よりも大きく上回る結果となるが、スクラムでは、体重の約80%の力が相手にかかるといわれている(辻野,1988)ため、スクラム力を絶対値ではなく相対値で評価した。
その結果、スクラム力の相対値は1.77kg/BWとなり、先行研究で示されたスクラム力の相対値は社会人レベルで1.95kg/BW、大学レベルで1.79kg/BWであったため、本研究の結果とほぼ一致している。
以上の結果から、動的なスクラム力の評価に、推定重量300kgのスクラムマシンを前方に押す際のスクラムスピードが、フィールドで実施する実践的なスクラム力の評価に対する妥当性が高いことが示唆された。
○まとめ
本研究の結果から、フィットロダインで計測したスクラムスピードは、フィールドでの実践的な動的なスクラム力の評価に有効的な方法であること考えられる。