ラグビーにおけるコンタクトの意味
平尾剛(神戸親和女子大学)
キーワード:身体性、競技特性、接触、ラグビーの魅力
1.目的
長らくの競技経験を顧みれば、ラグビーが魅力的なスポーツであることに私は独断的な確信がある。今でも目を閉じれば数々のシーンが甦ってきて身体が熱くなる。ラグビーには人々を惹きつける何かが存在すると信じてやまない。しかしながら、こうした「体感的な面白さ」は選手個々の主観に左右されるために、きわめて抽象的な表現にならざるを得ない。たとえ経験者同士での共通理解や共感に至ることはあっても、未経験者や観戦者には伝わりにくいものである。「やったらわかる」では些か排他的に過ぎるだろう。本発表では、主観的で抽象的な「体感的な面白さ」について、哲学的な視点からの考察を試みる。周知のようにラグビーにはコンタクトプレーがほぼ全面的に許されている。特に球技という性格を保持しつつ格闘技さながらの身体接触が伴う点に着目し、ラグビーにおけるコンタクトの意味を探究する。
2.方法
選手時代の経験と文献からの引用を照らし合わせ、身体論の文脈に沿って考察する。
3.結果と考察
ラグビーにおける「コンタクト」は、その質から以下の2つに大別できる。一つは、相撲やボクシング、またはK-1などの総合格闘技における相手にダメージを与えるためのコンタクトと同質な「タックル系」。もう一つは、ラグビーにしかみられない、味方同士が身を寄せ合って互いの力を合算するような「スクラム系」である。ラグビーでは無意識のレベルでこの2つの身体感覚の使い分けが求められるが、特に「スクラム系」の身体接触を伴う機会がラグビーには豊富に用意されている。この「スクラム系」こそがラグビーに特徴的なコンタクトプレーである。
4.結論
他に類をみない「スクラム系」のコンタクトには、お互いの身体を預け合うような身体所作が求められる。こうした身体所作は、受動と能動が同時に起こる「接触」という感覚の、その根源的意味における体感とは言えないだろうか。相手にダメージを与えるのではなくお互いの力を結集するためのこうした身体接触には、人間同士が通じ合うためのコミュニケーションの原型を予感させる。他者とのつながりの直接的な体感、それこそがラグビーに秘めたる魅力であると考える。