中井俊行(大阪体育大学) 石指宏通(奈良県立医科大学) 三野耕(大阪産業大学) キーワード:ラグビー選手、事例研究、形成的評価
【はじめに】
三野らは、これまでにラグビー選手のタレント発掘について発育学的に検討し、縦断的な身長や体重を用いて中学生ラグビー選手について追跡しトップ・アスリートへと育成していく方策について検討してきた。さらに大学ラグビー選手のスピードを加味したパワーを形態学的に検討し、身長と体重とからパワーを評価することを可能にした。今回は、大学に入学してきたラグビー選手における練習やトレーニングによるスピードを伴ったパワーの形成的評価について、身長と体重とから推定したパワーとスピードと、実際のパワーとスピードを縦断的に追跡した事例を報告するものである。
【方法】
1.対象:O大学に所属し、小学校から高校まで毎年4月に測定された身長および体重が揃っていたフォワード選手2名、バックス選手2名の計4名である。大学入学後の身長、体重および50m走時間はラグビー協会登録時の測定値を用いた。
2.大学ラグビー選手のスピードを加味したパワーを評価するための簡易図: 三野らが報告した2009年度の各地域におけるトップのリーグに所属する大学選手のフォワードおよびバックスの形態学的にパワーを推定できる式をもとに身長と体重とからパワーを推定する簡易図、ならびに50m走時間と体重からパワーを求める簡易図から構成されている図を用いた。
3.パワーの目標値の設定について: 各選手の小学生からの縦断的身長発育から成熟の遅速、PB1法による最終身長の予測をした。また、体重に対する体表面積の割合を比体表面積(:s)として、縦断的な比体表面積の逆数(:1/s)から目標とする1/sを予測した。
【結果】
事例1:プロップ選手:PB1法による最終身長の推定値は178.88cmであり、トップのプレーヤーの1/sの分布状態を参考にしてFWのトッププレーヤーの上限である5.0を目標値と判断した。その結果をもとにトレーニングが可能と推定される体重は114kg程度と予測できた。一方、高校3年時の身長は180cm、体重103kg、1/sが4.97、50m走時間が7.0秒、50m走時間と体重から求めるパワーが736kg・m/sec.であったことから、身長と体重とから推定されるパワーが
750kg・m/sec.に対して、14 kg・m/sec.低く評価された。また推定される50m走時間が6.9秒に対して、0.1秒低く評価された。
これらの評価から目標体重114kgならびに50m走時間の予測値6.9秒とすれば、パワーは850 kg・m/sec.が目標値になる。この選手の大学4年生時の体重115kg、50m走時間7.2秒、パワー799kg・m/sec.であった。高校時代よりもパワーの増大が認められたものの目標値との間に隔たりが見られた。これらのことからパワー増大のためには質量(体重)よりもスピードの増大が必要であることを示すものであった。
他の3名の事例については大会当日に発表するものとする。
【考察】
身長発育から成熟度と最終身長がわかれば、成熟度別にみた比体表面積から、これからの比体表面積が予想できる。また、予想された比体表面積をもとにラグビー・トップ・アスリートの比体表面積の目標値から、各個人の目標体重を見積もることになる。この目標体重と身長発育の縦断的変化から見積もられた最終身長とから目標とするパワーが設定され、実際の50m走時間と設定されたパワーから求められる50m走時間が設定されることになる。4名の事例について、いずれもが大学の4年間で設定された目標値に近似したパワーと走時間が得られたことは、目標開発のための条件を満たしていたものと考えることができそうである。
本研究の事例での練習やトレーニングは本人やコーチの経験則でもって実施されたもので、目標値をもとにして実施したものではなかった。このことは本人やコーチの経験則が十分に生かされたものと考えると、経験則が不足した本人やコーチのもとではこのような結果になったとはいえない。このことから、本研究の個別的な目標値を設定する方法は、経験則の不足した本人やコーチなどが利用できる可能性を示唆するもので、身長と体重とからパワーおよび50m走時間が推定できる簡易図は練習やトレーニング途上での形成的評価に利用できるものと考えられた。