星野繁一(龍谷大学) 西村克美(嵯峨野高校) 髙木應光(神戸居留地研究会
キーワード:ルール違反、ジェントルマンシップ、ラグビー精神、危機的状況、指導者責任
【目的】
2012年3月に発表した「ルールに対する倫理観」を再度活用し、サッカー選手との比較を通して、ラグビー選手のルールに対する倫理観、その特性について考察してみた。
【調査方法】
先行研究は前回と同様、木幡日出男(現成徳大学教授)「ファウルについての考え方~中学生サッカー選手の調査から」(1989年サッカー医・科学研究会)を基にアンケート票を作成。前回のラグビー関西学生リーグの6大学生319名、今回サッカー関西学生リーグの6大学生285名からアンケートを回収し集計結果を得た。
【結果と考察】
アンケート結果を5つの分野に分け、サッカー及びラグビー選手のルールに対する意見を比較させながら分析・考察を試みた。
(*①~⑲は質問番号、質問票は別紙)
1)プレーヤーとレフリー:④「注意、警告、退場」を受けた選手数に大きな差があった。即ちサッカーが78.2%に対してラグビーは41.7%で半数程度でしかない。それは、両者のルール構造の差によるものではないか。
2)遵法精神:⑥「反則も戦術」⑦「場合によって反則も可」⑱「どんな場合でも反則は不可」等の項目では、サッカーとラグビーとで有意差(χ²-検定0.01~0.05)があり、ラグビーの方がやや遵法精神に富んでいると言える。⑬「退場・イエローカードにならなければ反則も可」では両者に大きな差があり、これに反意を持つラグビー選手63.9%(サッカー42.3%)に安堵する。しかし⑪「反則はレフリーに見つからないように」への賛意は、サッカーとラグビーとで差はない。かつてスポーツマンに求められた理想像からは、ほど遠い。サッカーと比べ密集など反則が見え難いラグビーだからこそ「こそドロ」的な精神は非難されなければならない。
3)スポーツマンシップ:⑩「敗戦時、相手を誉めるべき」には両者とも4割強しか賛成しない。“ノーサイド精神”を強調するラグビーが。これでは看板を降ろさざるをえない。⑭「スポーツマンシップを心がけて試合する」には両者とも8割近くが賛意を示しているが、⑮「スポーツマンなら反則しないのは当然」には両者とも35%程度しか賛意を示さない。筆者らは「スポーツマンシップ」をスポーツの場におけるジェントルマンシップと解するが、このような指導が必要であろう。
4)反則と勝敗:⑨「勝つためには反則も必要」への賛意はサッカー46.7%、ラグビー37.6%とラグビーの方がやや抑制的である(χ²-検定0.05)。だが、これへの反意は25%位でしかない。しかも⑲「反則してでも勝ちたい」ではサッカーと差はなく35%もが賛意を示している。大いに問題であろう。大学ラグビー界にサッカーと変わらない勝利至上主義が蔓延していると言えるだろう。“Good looser”は死語なのか。
5)サッカー/ラグビーの目的:⑰「一番大切なことは勝利ではない」に賛意を示すのは両者とも15%程度でしかなく、これに反意を示す数字が実に50%強にも達している。大学生といえども教育の範疇でのスポーツ活動である。にも関わらず最終目的を勝利に置くようでは、大学ラグビーの将来は暗いと言わざるを得ない。
【おわりに】
サッカー関係者の多くが「ラグビーをリスペクトしている」と話しているが、大学生ラガーマンの現状は情けない状況にある。我われラグビー指導者に託された課題は、技術や戦術面ではなく健全なラグビー精神の継承ではなかろうか。